ARTISTS
New Zero Art Space
Feb 24 - Mar 03, 2019
ヤンゴン南部に位置するヨーミンジーは、外国人向けのホテルや飲食店が軒を連ねるお洒落な街として人気のエリアだ。ヨーミンジーエリアのアートギャラリー、ニューゼロアートスペースで2019年2月24日~3月3日の約1週間、ミャンマー出身のアーティストであるサットアウン氏の個展「カルプリット、ビクティム、ドリーマーズ」が行われた。同氏にとって4回目となる今回の個展は、戦争や平和がテーマとなっている。
同展で紹介されたのはアクリル画およそ10点と、作品数はさほど多くない。だがサットアウン氏のアートの特徴として、1つ1つの作品が大きいことが挙げられる。幅180センチ×150センチなど、背丈ほどもある大きなキャンバスの隅々にまで筆を走らせた作品たちは、えも言われぬ迫力を持っている。
壁一面を飾るキャンバスとミャンマーの子供たち
「犯罪者、犠牲者、夢想家」と直訳される個展名が示す通り、戦争を生み出した指導者や、犠牲となった人間たちを扱った作品が紹介されている。それらの絵画には血を連想させるような赤色や、暗い影のような黒色が多用されており、シュールレアリスム的な作風も相まって人間社会の闇が見事に落とし込まれている。
かつてのドイツ首相であり、典型的な独裁者として有名なアドルフ・ヒトラーを描いた「ヒトラー」には、絵画上部に右手を掲げるヒトラーとナイフが、その下には懇願するかのような両手や、横たわる女性が描かれている。ヒトラーの視線は上を向いていて、犠牲者のことは目に入っていないようだ。
「ザ ラスト ディナー オブ バーバリアンズ」は、戦争を起こす人間をバーバリアン=野蛮人、平和を鳥=彼らの食事に置き換えて、戦争と平和の関係を描いた1枚だ。平和の鳥はいつ野蛮人から解き放たれるのか、いつ自由になれるのか、彼らの食事はいつ終わるのか。サットアウン氏は終わらない戦争への疑問を、最後の晩餐という皮肉を込めたタイトルでも表現している。
個展名に使われるドリーマーズとは、平和を夢見る者を指しているのだろう。戦争のない場所では、子供たちは不安もなく自由な心で喜びにあふれて生きている。もしも世界に戦争がなければ、泣いてお腹を空かせている子供たちは笑い楽しんでいるし、焼けて空っぽになった村には緑と活気が戻り、鳥も空を飛んでいる。
サットアウン氏が想像するのは、そんな、戦争のない自由で喜びに満ちた世界だ。大きな折り鶴に掴まって青い空を飛び回る子供たちの表情は明るく、地上は自然で覆われている。キャンバス内の至るところにハートマークやピースマークが描かれており、恐怖を感じる要素はどこにも見当たらなかった。
戦争の犯人や犠牲者をテーマとした彼の作品では、そこに登場する人間の多くがコラージュのように体の一部、あるいは全体がバラバラになった状態で描かれている。それに対し、平和がテーマの作品では、人間の体はすべて正常に描かれている。サットアウン氏は人間を壊す戦争と生かす平和とを、アートを通じて視覚的、感覚的に訴えようとしているのではないだろうか。