ARTISTS
Myanm/art
Sep 07 - Sep 29, 2019
ヤンゴン中心部に位置する雰囲気の良い画廊「ミャンマート(Myanm/art)」の明るく暖かい照明の中で、黒いインクとチャコールに埋め尽くされる壁面が浮かび上がっていた。人工衛星が煙を上げて落下しつつある地上では、団地の空き地が茶色い墓標で埋め尽くされている。眼をそむけたくなるような重いテーマだが、訪問者はこの絵画から発散するプレッシャーを受けて立ちすくんでいた。
12枚の画用紙にインクと木炭で描いた「灰塵の世界」。
滅びの瞬間に人間は描かれていない
ネオンアート「ラスト・スタンド・オブ・ウッド」は電線がもの悲しい
この展示会「時代の亡骸」で、ギャラリーの壁面一面に目を引くように大きく展示されているのは、12枚の画用紙に木炭とインクで書かれた「灰塵の世界」だ。作者のカウンスー氏が、この個展のために書き上げた作品だ。この絵の中には文明の象徴であろう人工衛星はあっても、社会の象徴であろう住居があっても、人は描かれていない。「ここに生ける者はなく、死んだ者もいない」と解説されており、人間が存在するのか存在しないのかがわからない。カウンスー氏にとって死ぬのは文明であって、人間個人ではないのかもしれない。
カウンスー氏の作風は、滅びや死を象徴させる不気味さに特徴がある。その一方でその表現方法は多彩だ。ミャンマーでのネオンアートの走りとしても知られ、今回も「ラスト・スタンド・オブ・ウッド」を展示した。緑や黄色にくすんで光る一本のネオンを立ち木に見立てた作品で、機器につながる配線もあらわにして、どこか寂しさを感じさせるようだ。
インスタレーション「知性の衰退」
骨をテーマにした「足跡を消す」
ギャラリーの中央に位置するインスタレーション「知性の衰退」は、猿のように不気味な姿をした人類が、煉瓦造りの建造物や人工衛星を抱えている姿を描いている。文明の発展と人類の退化という矛盾を示し、それが長続きすることなく、破滅とともに新しいものが生まれるというメッセージが感じ取れる。このほか、4枚組の「足跡を消す」は、骨によって絶滅と革新の双方を表現したものという。
それぞれの作品に込められたメッセージはそれぞれ違うのだろうが、共通して感じさせるのは「破滅」や「終焉」が示す生命力だろう。絶望を描きながら、そこに美しさや力を見出し、表現したと解釈できる。
ミャンマーの作家がネガティブな感情をキャンバスにぶつける時、多くの場合は軍事政権など目に見えた敵に対するメッセージを発することが多かった。カウンスー氏はそれにとどまらず、文明そのものの在り方や、人間の死生観に踏み込んでいる点に特徴がある。答えのないもやもやとした感情を訪問者に残させる、ミャンマーでは異色の展示会と言えるだろう。
画用紙にインクとアクリルで描いた「火山の怒り」
カウンスー氏の描く黒のメッセージが来場者に迫る