COLLECTIONS
(Labu Sayong)Labu Gelugor / Labu Panai / Labu Licin, Clay from Sayong, Perak
Technique: Traditional Sayong hand pinch/handbuilt, Made by Mak Nah (Maznah Sulaiman) of Sayong Village, Perak
All images: ©︎Shooshie Sulaiman, Courtesy of Tomio Koyama Gallery, Photo by Kenji Takahashi
マレーシアで 250 年以上の歴史を持つ水容土器。
Labu は子孫繁栄の象徴であるひょうたん型、Sayong はペラ州にある Labu 作りが盛んだった村を指し、その形と産地から Labu Sayong という名前はつけられました。Labu で保存した水は冷たく保たれるという性質を活かし、かつて人々は畑仕事などの作業の合間に、持参した Labu から水を注し喉を潤したそうですが、現在は実際に家庭で水容器として使われることは殆ど無く、花瓶や装飾品として扱われています。
伝統的な技法プロセスとしては、まず河岸や蟻塚から粘土を集め、手で捏ね成形、川の小石で表面を滑らかにし、削った木材で装飾を施し、日の元で乾燥させ、低めの温度 (800°C ) で焼成します。最後の工程で籾殻の中に置くことで、 艶やかで美しい黒い焼き肌が生まれます。彩色するために釉薬は使いません。装飾のモティーフは多雨林で見つけられる素材を元にしており、たけのこ、丁子(ちょうじ)や米の花などの草花、または魚や虎、鹿の蹄(ひづめ)など が挙げられます。 現代では型を使い電気釜で制作し、品質が均一なものを大量生産する方法に代わっており、マレーシア国内でも伝統的な技法で作られた質の高い Labu を見つけるのは困難と言われています。
元来、Labu Sayong 作りは女性の仕事とされており、田植えが終わり収穫前のタイミングで、家事がひと段落した際に作られていました。本展で紹介する Mak Nah(マク・ナー)氏、シュシ・スライマンが見つけることのできた唯一の伝統技法を知る女性もそのように Labu Sayong を作り続けてきました。しかし高齢のため、また、手びねりの Labu にかかる時間と労力、社会の変化のため Labu 作りを止めていましたが、シュシの熱心な働きかけ、サポートで再開し、少しずつ制作するようになりました。
シュシ・スライマン / Shooshie Sulaiman
1973年 ムアール、マレーシア生まれ
1996年 マラ工科大学芸術学部絵画専攻卒業、マレーシア
現在、クアラルンプール、マレーシアおよび広島県尾道市にて制作活動
シュシ・スライマンは現在、東南アジア出身の重要な現代アーティストのひとりと注目されています。マレー系と中国系の血を引く彼女は、東南アジアの歴史、祖国マレーシアの文化や自身の記憶、アイデンティティを作品の大きなテーマとしてきました。時にその土地特有の樹木や土、水などの自然物を使用し、ドローイング、コラージュ、インスタレーション、パフォーマンス等幅広いアプローチで作品制作する神秘的な世界観は、人間と自然、アートとの分ちがたい複雑な関係性を私達に提示します。
シュシ・スライマンは、経理の仕事を経験した後、突然の父の死など精神的に落ち込んだ「自分自身を救い、癒すために」アート制作を始め、1996年マラ技術大学にて美術学士号取得。その後、マレーシア国立美術館の Young Contemporaries Award を受賞し、2007年にはドクメンタ12に参加、2016年パリのカディスト美術財団で個展を開催するなど国際的に活躍してきました。
また、2014年からはマレーシアのアーティストプラットフォーム「MAIX」に参加。様々な領域のメンバーとのコミュニティを形成し、精力的に活動しています。日本では2008年「エモーショナル・ドローイング」(東京国立近代美術館 / 京都国立近代美術館)、2017年「サンシャワー: 東南アジアの現代美術展1980年代から現在まで」(国立新美術館、森美術館、東京)、同年ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」(横浜美術館他)の出展で知られ、また、2013年から続く広島県尾道市のアーティスト・イン・レジデンス「AIR Onomichi」に継続して参加。2023年には尾道市美術館で個展を開催予定です。作品はカディスト美術財団(フランス)、シンガポール美術館、東京国立近代美術館に所蔵されています。
2021年小山登美夫ギャラリーで開催された個展「赤道の伝承」では、「パブリックな創造活動」として、2019年からのシュシの新しいアイディアである「アートの保全」をテーマに、マレーシアの伝統技法による手びねりの水壺「Labu Sayong」100個を一堂に展示しました。
そしてベルリン在住の映画監督、Katharina Copony に協力し制作された映像では、現在唯一この技法で制作ができる68歳の女性陶芸家 Mak Nah が、自然と対話し、作品に魂を宿すような、リラックスした瞑想的手法で「Labu Sayong」を作る様子が収められています。失われゆくこの貴重な伝統を守るために、シュシは、MAIX のメンバーと共に女性陶芸家 Mak Nah へのサポートを行い、アイディアを提供しており、「Labu Sayong」の売り上げは「Labu Sayong」美術館設立の資金に充てることも計画されています。