Exhibitions
Goethe-Institut Myanmar
May 01
ヤンゴン・カンドージ湖の北西に位置するゲーテ・インスティチュート(ドイツ国際文化交流センター)で2019年5月1日、女性アーティストによるアートイベント「ガールパワー ウーマン・ナウ・パフォーマンス・アートショー」が開催された。
ミャンマー在住の様々な分野のアーティストが集まるイベント「ガールパワー」シリーズの一貫で、タイトルの通り出演するメインアーティストはすべて女性だ。同年4月から6月まで、全3回に渡り行われた。
シリーズ第2回目にあたる今回は、現代アートが取り上げられた。ヒップホップコンサートが行われた前回とはガラリと雰囲気が変わったことだろう。実際、現代アートをテーマとした今回は予想がつかない前衛的なパフォーマンスの連続で、国籍を問わず観客を驚かせていた。
国際文化交流センターで催され、司会はミャンマー語と英語の両方で進められた。イベント案内と開演挨拶の後、1人目のパフォーマンスが始まった。
会場前方のスクリーンにモノクロの映像が投影される。映像の中では、若いミャンマー人女性が列車内で乗り合わせた人々にメッセージが書かれた紙を配布している様子が流れている。
上映が始まってすぐ、アーティストのターメージーがステージ脇から静かに現れた。映像に映る女性本人だが、驚くのはその外見だ。彼女は一糸まとわぬ姿で会場に現れたのだ。
配布された紙と同様のメッセージを身に付けている
ターメージーは全裸で客席を周り、1人1人に白い紙を手渡していく。「Human’s Missing!」と題された紙には、人類が人間性を失ってしまったという考えと、失ってしまった人間性をともに見つけてくれないかという彼女からのメッセージが書かれていた。
観客全員に配布し終えると、ターメージーは映像が流れ続けるスクリーンの前に立ち、静かに目を閉じた。そのまま約5分間微動だにせず、映像が終わると静かにステージを後にした。
続く2人目のアーティスト、シーターも、真っ黒のワンピースに黒の覆面という変わった格好で登場した。そして席前列に座る観客に長い糸のついた指ぬきを預けると、会場の真ん中へと戻り、カラフルな棒つきキャンディに指ぬきと繋がった糸を巻きつける。同じ行為を5回、5人の観客に対して繰り返した。
その後、場内真ん中に置いていたキャンディを袋から取り出して覆面の上から口に咥えると、キャンディから伸びた糸を顔に何重にも巻き付け始めた。さらには体を回転させて、体にも糸を巻き付ける。すべての糸と指ぬきまで巻き取ると、場内中央でライトと観客の視線を受けたまま立ち尽くし、パフォーマンスを終えた。
3人目のエミリーピョー、4人目のマーエイも、やはり奇抜な格好で登場から一気に観客の興味を集めた。
エミリーピョーは真っ白な装束を着用したうえ、顔面が完全に隠れるほどの大きさの反射板を付けていた。彼女がスクリーン前の台座にあぐらで座ると、反射板に向けて様々な映像が投影され、映像に対応するように彼女も手のポーズを変えていった。エコーのかかる淡々としたBGMや、模型のピストルが使われるなど、全体的に緊張感のある演出となった。
まるでレッドカーペットのような大きな布を纏うマーエイは、場内中央にゆっくりと寝転がると頭まで布を被り、流れているBGMに合わせて床を這い回る。BGMは殻を砕くような、もしくは食べているような音だ。しばらく布を被ったままうごめいていたかと思えば、突然頭と手をのぞかせ、ふたたび床を這い回っている。最後は布を脱ぎ捨てて無言で座り込む。生命の誕生を思わせるようなパフォーマンスだった。
ピューモンの出で立ちは、それまでに比べると普通だった。しかし目を引かれるのは、彼女が手にする大きな鳥かごとそこに繋がれた色とりどりの風船、そして大きなクマのぬいぐるみだ。
手にしたそれらをステージ脇に置くと、まずは客席の中央に白と黒の布を交互、放射線状に並べていく。並べ終えたところで4番目のアーティスト、マーエイが登場し、2人は布を挟んで向かい合った。
ピューモンが用意していた風船を手に取ると、そこには口や目など体の部位が1つずつ描かれている。耳の絵が描かれている風船をピューモンが手に取れば、マーエイは耳をすませるポーズ、口の絵なら何かを叫ぶなど、絵に従い次々とポーズを変えていく。
やがてすべての風船を鳥かごから開放すると、その風船を客席に向かって投げ出し、最後にクマのぬいぐるみを回収。2人揃って観客へ頭を下げ、ステージ裏へと消えていった。
ラストはこれまでと異なり、観客参加型のパフォーマンスだった。「あなたにとっての平和とは?」という質問の答えをボードに書いていってほしいと、最初にアナウンスされる。それを聞いた観客は一様に頷いていた。
その後登場したアーティスト、ヌェレイは、場内の真ん中に青い布で道を作ると、壁際に大きなメッセージボードを設置。そしてボードに大きく「FUCK PEACE」と書き込むと、今度は布製の道をハサミで細長く切り始めた。
ヌェレイの様子を見守っていた観客だったが、欧米人の女性がペンを取ったのを皮切りに、計6人の観客がボードに「自分にとっての平和」を書いていた。
ヌェレイは笹状になった布を自分の顔、口元あたりに巻きつけると、「平和」に対する回答が書かれたボードを持ち上げ観客に見せてまわる。やがてボードを持ったまま、そっと現れた1番目と2番目のアーティストによって体中をラップでぐるぐると巻かれていった。最後にはラップで巻かれたままボードをスクリーンに立てかけ、顔だけをラップから解く。深々とお辞儀をして、すべてのパフォーマンスが終了した。
回答する観客の男性
終演後はアーティスト本人による質疑応答の時間が設けられた。自らが女性アーティストであると強く意識していること、未だ男性優位のミャンマー社会へアートを通して伝えたいものなど、アートに対する彼女らの想いが語られ、イベントを締めくくった。