Exhibitions
Gallery 65
Oct 25 - Oct 27, 2019
アートは街を変える。このことをミャンマー最大都市ヤンゴンで実証しているのが、ヤンゴンの裏道の壁をアートで埋め尽くし、人の集まる場所として再生する「YGN WALLS」だ。このプロジェクトにかかわる4人の芸術家が、壁ではなく展覧会の形で作品を公開したのが、2019年10月25日~27日まで、ヨーミンジー通りのギャラリー・シックスティファイブで開催された「フォーヘッズ・オフザウォール」だ。
プロジェクトを進める4人のうちの1人が、アメリカ人アーティストである、デイビット・リチャード氏だ。現在はミャンマーに腰を据えているリチャード氏だが、これまでにジャマイカやカンボジア、日本などへも渡っており、行く先々の国でとらえた光景を水彩画に表現している。
夜のシュエダゴンパゴダ。ライトアップされ、ひときわ輝く様子を表現
イギリスや中国など、多様な国の文化が共存しているミャンマーが好きなのだと語ってくれた。仏教施設のシュエダゴンパゴダや英国スタイルの旧ビルマ政庁などのヤンゴン市内はもちろん、ガパリビーチなどへも足を運んでは、現地の景色や文化を絵にしている。さらに彼は、ミャンマーの美術や建築に関する新聞記事や雑誌記事を収集しており、そのコレクションも公開されていた。
ミャンマーの芸術を描いたシリーズと、リチャード氏本人
またミャンマーだけでなく、日本やカンボジアを描いた作品もいくつか展示されており、中でも日本文化を好んで何度も日本へ旅行しているという。実際の作品でも、着物姿の女性や清水寺といった寺院など、文化的な要素を題材にしたものが目立っていた。
英語とミャンマー語の記事を収集している
葛飾北斎による木版画「神奈川沖浪裏」のオマージュ作品
絵画をメインに活動するジュリー・アン・ペディーダ氏は、フィリピン・マニラ出身だ。「ティーショップ」や「ヤンゴンモンスーン」と題された作品のように、ヤンゴンの文化が一目でわかる情景を扱う作品が多く見られた。ほとんど影のない色使いに、人物と必要最低限の道具しかキャンバスに描かれないシンプルな作風がミャンマーの文化を際立たせる。カレン族などの地方の女性を描いた作品でも、細部のラインはないにも関わらず、それぞれの部族の特徴が的確に表現されているのだから不思議だ。
ミャンマーにある様々な民族の女性が描かれる
そして3人目のアーティストが、アレクサンドル・バートランド氏である。様々な形態で芸術活動を行っているバートランド氏だが、同展ではカメラマンとして参加。木製のパイプを咥える老女、祭りの主役である男児ら、新年を祝う花火が華麗に咲くパゴダなど、ミャンマーのリアルを切り取った数々が展示された。
じっくりと観覧している女性もいた
同展で唯一のミャンマー人アーティストであるゴーメプー氏は、現代的かつ独創的な感性の持ち主だろう。黒で塗りつぶされたキャンバスに、真っ白なドアと人の手形だけが浮かぶ「ザ・ドア」をはじめ、四角形の顔を持つ男「スクエア・ヘッド」や、あまり見られない丸いキャンバスいっぱいに孔雀を描いた「ダウン」などに、その独特の世界観を確認できた。
キャンバス中に描かれた手形が不気味な雰囲気だ
展示会が終わったいま、彼らの作品はヤンゴンのあちこちの裏道の壁で見られるようになっている。この展示会だけでなく、様々なミャンマー人やヤンゴン在住の外国人を巻き込みながら、町中を美術展にしようとしているのかもしれない。