Exhibitions
KALASA Art Space
Oct 05 - Oct 16, 2019
ミャンマー最大都市ヤンゴンの中心部に誕生した新しいギャラリー「カラサ・アートスペース」で、ミャンマーの代表的作家アウンミン氏の作品が並んだ。英国時代の碁盤の目状に整備されたダウンタウンの古ぼけたビルの2階のこじんまりとしたスペースだ。言論の自由がなかった時代から創作活動を続けてきたアウンミン氏の作品群はいま、国内外で高く評価され、増えつつあるヤンゴンのアート空間をリードするものとなっている。
展示会「17 A.M」のメインとなっているのは、アウンミン氏の代表的な作品シリーズのひとつ「母と子」。赤子に授乳する女性の姿を、白地に黒いコミカルな曲線で一筆書きで描いている。直径50センチほどの円形のキャンバスを使った作品が壁一面に並べられている。内面をえぐるようなプレッシャーを感じる作品も多いアウンミン氏の中で、鑑賞しやすい落ち着いた空間を形作っていた。
シンプルな曲線で描かれたアクリル画「母と子」シリーズ
母性を強調したシンプルな作品郡から目をギャラリーの反対側に向けると、アウンミン氏の別の一面が現れる。鮮やかな燃えるような真紅と、深い闇のような漆黒で、白いキャンバスを包んだ作品だ。アウンミン氏は、観る人にシンプルで強い印象を残すこの3色を好んで使う。彼自身、色へのこだわりは強く、タイトルにも「赤は勇気」「赤とその赤」などその片鱗が見える。
アウンミン氏は赤と黒を強調する作品で有名だ
アウンミン氏の「赤は勇気」
ミャンマーの美術史を体現しているようなアウンミン氏にとって、厳しい検閲があり、アーティストが自由に活動できなかった歴史の重圧は重かったはずだ。本人は作品の政治性を否定するが、その内から出る表現はやはり毒を含む。鮮やかな色で表現するものの中に時折、アウンミン氏の中にある深い闇が表出しているのだ。「赤を背に」と題した作品では、鉄格子や十字架をイメージさせる赤いデザインの奥に、亡霊のような顔が浮かび上がる。
「赤を背に」では、4人の亡霊のような顔が見て取れる
また、「扇」と題された2012年のアクリル画には、ミャンマーの仏教僧の持つ道具のひとつである扇のイメージが浮かび上がるが、仏教のシンボルである「卍」がカギの向きが逆の逆さ鍵十字となっていることが、観る人に疑問を投げかけるポイントになっている。そのカラフルな背景の色の配置は、地図に見えないこともない。
多くの扇が浮かぶ中央に逆さ鍵十字が見える
抽象画家のアウンミン氏は、解釈が難しい作家といえる。だが、この展示会を企画したカラサ・アートスペースの創業者兼キュレーターのスートエアウンさんは、「難しく考えて解釈しようとしなくても、美を楽しんでもらうだけでもいい」と話す。
カラサでは、出来るだけアートを身近に感じてもらえるよう、くつろぐためのスペースを設置し、書籍も置いている。9月末にオープンして1週間しかたっていないこの新しいスペースにアウンミン氏の作品を展示することで、多くの美術関係者や愛好家が訪れ、議論に花を咲かせていた。こうした自由なスペースは、長い軍政時代にアウンミン氏が願ってやまなかった空間に違いない。ミャンマーの現代美術を代表するアウンミン氏の作品は、今ヤンゴンで増えつつあるギャラリーや美術スペースを盛り上げる役割を果たすようになっている。