Exhibitions
紀南アートウィーク
Jun 10 - Aug 31, 2023
All images courtesy of the artists and Kinan Art Week
紀南アートウィーク実行委員会は、和歌山県南紀白浜駅前の真珠ビル/ノンクロンにおいて、「アナルコ・アニミズム」展を開催します。
アジアのアーティストやキュレーターらの専門家ネットワーク、プロダクション・ゾミアのキュレーションによる本展は、「アウラ現代藝術振興財団」のコレクションから、自然と人間の関係性をめぐって作品制作を続ける東南アジア出身の5組のアーティストを紹介します。
この展覧会は、宮城県石巻市で開催されたリボーンアート・フェスティバル2021-2022のために企画されました。東日本大震災の経験は、生命や追悼そして復興に対する国の考え方、あるいは自然を支配してきた人類の営為を再考させるものでした。
そのような問いかけをめぐって、私たちはアジアのアーティストたちとそれぞれの経験を共有し、意見を交わしながら、以下のような展示コンセプトをつくりました。ここには、個人的な視点から地球的な視点までさまざまなスケールを通して作品を作り続けてきた彼らの声がこだましています。
牡鹿半島とゾミア世界の共通点でもある「山海近至」の地理的条件は、ここ紀南の土地との共通点でもあります。
この展示は、文化/自然、生/死、国家/ゾミアといった境界を横断し、アナーキズム的思考を通して、「支配者なき世界において、私たちはいかに自然と絡まり合いながら、共に生きていくことができるのか」という問いかけを提示しています。
【開催概要】
日 程 : 2023年6月10日(土)~8月31日(木)
時 間 : 10:00~20:00 (月曜定休)
会 場 : nongkrong (ノンクロン) / 〒649-2201 和歌山県西牟婁郡白浜町堅田1385-1
入場料 : 入場無料
主 催 : 紀南アートウィーク実行委員会
協 力 : アウラ現代藝術振興財団、Artport株式会社、Salon Shinju/ノンクロン
キュレーション:プロダクション・ゾミア
----------------------------------------------------
頼らなくても、生きていける
これは、牡鹿半島で得た「言の葉」だ。
小さき霊魂(カミ)の流れる息吹。この「言霊」には、小さきカミが宿っている。
また、山海近至の風景は、「いくつもの 〈非〉 日本」の痕跡を示す。
牡鹿半島と同様に、紀伊半島からも、「ゾミア」の残り香がする。
タイ、カンボジア、ミャンマーなどの大陸の山岳地帯には「ゾミア」の故郷がある。
そこに現存する高地人を意味する「ゾーミ」たちは、小さきカミと共にある。
彼らは、自然と共に、その恵みと災いと共に生きてきた。
それゆえに排除や純化を回避し、ひとつの中心を生まない叡智、
動植物、無機物、霊魂など、混淆とした関係性を創造するアニミズムの知恵、
そして、アナルコ(アナキズム)的に、
国家による奴隷、兵役、徴税などから逃れ、
あえて文字を残さず、移動 / 分散を司る賢き旅人たちだ。
彼らの旅先となる「ゾミア」と呼称される場所は、山や森だけではない。
川や海も避難地としての「水のゾミア」となる。
ゾーミたちは、中央集権化されていく平地から大海へ逃亡し、
今のインドネシア、台湾、沖縄、紀伊半島などを経由し、牡鹿半島に流れ着いたのだろうか。
「文明の沈降」 と 「まつろわぬ生命」
一方、文明社会では暮らしとはかけ離れた虚構の「労働」が氾濫し、それが洪水のように流れる。
「制度」や「テクノロジー」に支配され、矮小化する世界――
目に見える有限の貨幣や物質だけを「資本」と呼ぶ「ホモ・エコノミクス」の奇妙な社会――
文明が沈降すればするほど、大きな物語や原理にしがみつく人々――
沈降する文明の影から、アナルコ・アニミズムを信奉する「ゾーミ」が現われる。
人間、動植物、無機物と流動するカミが絡み合う。
この生命の絡み合いは、「共生」や「利他」を超えて、
異なる原理に生きる対極的な存在同士の瞬間的な共存関係だ。
静かに抵抗する「まつろわぬ」生命たちは、
大きなものに頼らず、互いの自律性を保ちながら、
今日も一瞬の生を謳歌している。
----------------------------------------------------
【展示作品及び参加アーティスト】
アピチャッポン・ウィーラセタクン|Apichatpong Weera sethakul
懐古の光|The Light of Longing [2021]
アピチャッポン・ウィーラセタクンは、1970年タイ生まれの映画監督です。カンヌ国際映画祭など多くの映画祭で賞を獲得し、数々の芸術祭にも参加しています。ウィーラセタクンの作品は、しばしば非線形で、強い価値転倒を生じさせ、記憶を扱い、個人的な政治や社会問題を扱っています。
新型コロナウイルスの感染者が増加し都市封鎖が行われていた期間に、ウィーラセタクンはかつて数本の映画を撮影したタイ北東部ノーンカーイを再訪しました。メコン川流域に広がる風景と川の流れは土地の記憶を喚起しますが、人々の生活は上流部のダム造成の影響を受けて大きく変容してしまっていました。
この写真は、そこで見た生活の記憶が失われていき、場所が死んでいく状況を捉えています。さらに、彼は論理や常識が導く間違いや、あるいは自然環境の破壊を示すために写真を上下逆さに構成しています。
懐古の光 / The Light of Longing, 2021
アピチャッポン・ウィーラセタクン / Apichatpong Weera sethakul
イルワン・アーメット&ティタ・サリナ|Irwan Ahmett & Tita Salina
アトランティスの収穫|Harvest from Atlantis [2019]
イルワン・アーメットとティタ・サリナは、インドネシア・ジャカルタ出身のアーティスト・デュオです。1500万人の人口を抱える巨大都市での生活と現代の大規模な権力闘争の中で、公共空間に介入し、都市開発、政治的抑圧、植民地時代の遺産、生態系資源の搾取に関する問題について鋭い社会批判を行います。
山から流れる河川は森林から栄養物を運び、豊かな海をつくります。ジャカルタ湾の漁業者が養殖を行うムール貝は、肉よりも安価なタンパク源として重要な収入源となっています。しかし、家庭ゴミと重金属の廃棄物による汚染や、大規模な土地の民営化が、彼らの生活を崩壊させつつあります。
作品のタイトルは、ジャカルタ湾に沈没したと信じられている”失われた都市アトランティス”から取られています。ジャカルタは、地盤沈下と海面上昇で現在も少しずつ沈降しています。イルワンとティタは、ムール貝漁業者と協働し、海に木を沈め、貝が実るのを待ちました。森林伐採で現象が進む亜熱帯の木々を想起させるムール貝が育つまでの時間は、未来に対する希望と懸念の象徴でもあります。
映像:11分38秒
アトランティスの収穫 / Harvest from Atlantis, 2019 (Photo: Taichi Saito)
イルワン・アーメット&ティタ・サリナ / Irwan Ahmett & Tita Salina
アウン・ミャッテー|Aung Myat Htay
亡霊の地|A Land of Ghosts [2019]
アウン・ミャッテーは、1973年ミャンマー生まれのアーティスト、インディペンデント・キュレーターです。伝統的な造形に現代的な感覚を取り入れ、社会的なメッセージを表現しています。
この作品には、東南アジアの仏教圏で伝承されてきた物語に登場する人や動物、さらに写真アーカイブから作家が見つけた匿名の人々の姿が現れます。多くの生命を育む豊かな森林と海を背景に、それらが静かに浮かび上がっては消え去っていきます。数多くの民族、文化、言語、宗教が異なる人々がせめぎあう地域に広がる輪廻転生の思想のように、ひとつのイメージは別のイメージと複雑に結びつきます。
長い時間の流れの中でみれば、民族や種が異なっていても誰もが生まれて死ぬことに違いはありません。しかし、亡霊になっても深い欲をむき出しにする人間もいます。アウン・ミャッテーが描き出す往還的な世界観には動物、植物、昆虫、鉱物、さらには市民権を剥奪されている移民や移動を余儀なくされている人々たちも含まれ、利己主義を利他性と対置されるべきものとして批判します。
映像:5分10秒
亡霊の地 / A Land of Ghosts, 2019 (Photo: Taichi Saito)
アウン・ミャッテー / Aung Myat Htay
メッチ・チューレイ&メッチ・スレイラス|Mech Choulay & Mech Sereyrath
アニマルハンド|Animal Hand [2020]
枯れ木|Dead Wood [2020]
1990年代生まれの姉妹チューレイとスレイラスは、カンボジア現代アートの次世代を担う作家です。
チューレイとスレイラスは、地域の歴史と現地コミュニティによる森林保護活動を学ぶため、カンボジア北西部のアンロンベンを数回にわたり旅をし、本作を制作しました。僧侶や村人によって運営されている僧侶の森林コミュニティで過ごし、そこでの森林保護における宗教的慣習が作品に影響を与えました。
幻のように霧がかった枯れ木は、死を迎えた一本の木である一方、森林として捉えれば生命循環の重要な役割を担い、そこに命を感じさせます。現れては消え、次々と形を変える手は、森の奥深くに潜む未知の生物のように捉えどころがありません。知ろうとするのではなく、不可知の存在を受け入れることでしか感じえない世界のあり方を示すようです。
映像:アニマルハンド=2分10秒、枯れ木=1分16秒
アニマルハンド / Animal Hand, 2020 (Photo: Taichi Saito)
メッチ・チューレイ&メッチ・スレイラス / Mech Choulay & Mech Sereyrath
モンティカ・カムオン|Montika Kham-on
サイアミーズ・フューチャリズム|Siamese Futurism [2021]
モンティカ・カムオンは、1999年タイ生まれの映像作家です。映像の可能性、そして歴史を検証しながら、複数の未来を提示するため、映像技術の可能性を探求しています。また、演劇やダンスなど身体を扱う分野を映像に取り入れることで、非言語の「語り」によって、言語の境界を越えようとしています。
本作は、タイ東北部(イサーン地方)で、1901年から1936年の間に起きた中央政府に対して行われた歴史的な反乱についての新しい物語と創造を試みるミュージックビデオです。イサーン出身であるモンティカの母親を起点とし、眠りの中で繰り広げられる物語の背景に、モンティカはタイの中央政権から自治権を取り戻したイサーン地方を想像します。モンティカの描くもう一つのイサーンは、対立や同化の末に消滅した国家や文化、勝者の歴史の影に埋もれた人々の存在に気づかせます。それは、普遍的な歴史観に対する問いであり、忘却に対する抗いでもあるでしょう。
映像:サイアミーズ・フューチャリズム=8分41秒、サイアミーズ・フューチャリズム ビデオエッセイ=8分6秒、予言=2分52秒
サイアミーズ・フューチャリズム / Siamese Futurism, 2021 (Photo: Taichi Saito)
モンティカ・カムオン / Montika Kham-on
【会場】
フリースペース nongkrong
白浜駅前にある真珠ビル1階に新しく設立されたフリースペース nongkrong (ノンクロン)。2022年6月のビル火災から心機一転、「自由に人が集まり、コミュニケーションをとりながら気ままな時間を共有してもらいたい」という管理者の思いから、インドネシア語で「仲間とぐだぐだとお喋りしたりお酒を飲んだりすること」を意味する[nongkrong」と名付けられたフリースペース。