ARTISTS
1センチ幅に細く引き裂いた無数の新聞紙の紙片をキャンバスに敷き詰めたコラージュが、ラオスを代表するアーティスト、ホンサー・コッスワン氏の作品である。首都ビエンチャン市内のアトリエを兼ねた自宅にて精力的に制作活動を続けている。
子供の頃から絵を描くのが大好きで、将来は画家になると決めていた。高校卒業後に短期学校で3年間、美術全般について学び、さらに3年間、国立美術大学で絵画を専門に学んだ。大学卒業後は数年間、NGOのスタッフとしてラオス北部の少数民族地域で公衆衛生の啓発活動に従事したが、その際も活動に用いるポスターの作成を手掛けていた。
その後は今に至るまで、絵画ひとすじに取り組んでいる。当初はビエンチャン市内にかつて存在したギャラリーに専属アーティストとして所属していたが、制約のない自由な表現への想いから、現在はギャラリーには所属せず独立したアーティストとして活動している。
ラオス人の日常
発展するラオス
コッスワン氏が制作するコラージュ作品に共通するのは「対比」だ。対比の一方に描かれるのは、「ラオスのアイデンティティ」と彼が表現する、従来ラオス人の生活に根付いていた様々な物である。庶民の足であったサムローと呼ばれる三輪自転車、野菜や農具などを運んでいた編みカゴ、藁葺き屋根で平屋建ての家などである。もう一方は、毎日大量の旅行客を観光名所に運ぶ観光バス、携帯電話や高級車、お酒、煌びやかなショッピングセンターなど、万国共通でラオスにも姿を現し始めた経済発展の象徴たちである。
これらの対比はしかし、ともすればありがちな社会の現代化に対するダイレクトな批判とも、懐古主義的な現在の否定とも違う印象を受ける。1975年生まれのコッスワン氏は、幼少期の生活の懐かしい記憶も、経済発展により現在享受している豊かさへの興奮もともに内包し、その矛盾や自身の揺らぎを隠すことなく、あくまで前向きに表現しているように思える。その自然体な表現が、観る者にある種の後味の良さをもたらし、視線を惹きつけて離さない所以ではないだろうか。
これらのコラージュ作品は、2017年に森美術館・国立新美術館で開催された『サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現代まで』に出展されている。
コッスワン氏は、新聞コラージュに加え、もう一つの作風でも知られている。ラオス農村部やメコン川、蓮の花などを繊細なトーンで表現した水彩画である。独創性が高い作風とは言えないが、パステル調で描かれた優しい絵は観るものに安らぎを与えてくれる。
コラージュと水彩画。画法もトーンも全く異なる2つのスタイルについて、どちらがより自分らしいか、どちらの制作がより楽しいかと問うたところ、「どちらも自分でどちらの時間も好き。片方の制作に行き詰ったらもう片方の制作に取り掛かる」と、いささかの迷いもなく真っ直ぐな笑顔で答えてくれた。