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ウダム・チャン・グエン (UuDam Tran Nguyen): 過去と未来をつなぐ情熱と技術の融合

Vietnam
ウダム・チャン・グエン / UuDam Tran Nguyen

著者: 中西めぐみ

All is copyrighted by UuDam Tran Nguyen my portrait also, but taken by Chloe Callistermon

ウダム・チャン・グエン / UuDam Tran Nguyen
1971年ベトナム中部のコンツム生まれ。ホーチミンを拠点に活動。高校を卒業後、ホーチミンとアメリカでアートを学ぶ。パフォーマンスを軸とした映像や立体作品、ドローイングのためのマシンをインターネットで遠隔操作するインタラクティブなプロジェクトなど、動きをベースにした作品を発表。台湾・台中の国立台湾美術館で開催されている「アジア・アート・ビエンナーレ2021」(2021年10月30日〜2022年3月6日)に代表的な三作品を出品している。

■経済発展の代償をユーモラスに

経済成長を続けてきたベトナムでは、多くの自動車が行き交う一方で、庶民の足は今も大半がバイクだ。ホーチミン市中の道路には、日夜ヘルメットとマスクを身に着けてバイクに乗る人たちで溢れている。戦闘もののキャラクターのようにも見え視覚的に面白い光景だが、その背後には排気ガスによる大気汚染などの社会問題が潜んでいる。ウダムがアジア・アート・ビエンナーレ2021に出品するのは、いづれもバイクに乗る一般市民をモチーフにした作品だ。

「Serpents Tails」は、排気ガスでふくらんだ細長いのゴム風船でつながった28台のバイクがホーチミン市街地を走る映像インスタレーション。映像は世界の神話「乳海撹拌」「トロイアの木馬」「バベルの塔」をベースとした三部構成となっている。カラフルな色彩、排気ガス入りのゴムチューブを手に踊るダンサー、ライダーのユニークなファッションなど、遊び心をもってバイク社会の日常を描いている。一方、バベルの塔をバイクで取り囲む最後のシーンは、自ら排出した排気ガスにより世界が崩壊するメタファーのようにも見てとれる。

「Contemporary Saint Giongs」では、ベトナムの古典神話と21世紀の社会を融合。現代社会を生きる一般市民を紀元前約1690年ベトナムの英雄・聖ヤンになぞらえた。馬がホンダのバイクに、鉄の鎧がプラスチック製のヘルメットに代わり、経済格差や環境汚染、目に見えないウィルスなどと戦う様子を描いている。

約10年間の米国在住経験のあるウダムは、母国ベトナムに戻ってから、急速な経済発展がもたらす代償の大きさをつぶさに感じた。「発展の裏に潜む社会問題をアーティストとして問題提起したい」という想いで制作に取り組んできたという。「人間が全てをコントロールすることはことはできない。我々は目には見えない何か大きな力によって生かされている」と、発展に伴う人間の驕りについても警鐘を鳴らしている。

WORKS

  • Serpents Tails

  • Contemporary Saint Giongs

■ベトナムの現代史を体現する

ウダムはベトナム戦争中の1971年、ベトナムの中部高原にあるコントゥム省に生まれる。画家で作家・詩人の父親の影響で、幼い頃から芸術に興味を示した。父親から芸術を教わった記憶はないが、父の短編小説や詩が書かれたタイピングの紙の裏に絵を描き幼少期を過ごしたという。

1975年にベトナム戦争が終結すると、父親は芸術家であったという理由から4年半再教育キャンプに送られる。ウダム自身はホーチミン市の芸術大学でいったんは彫刻を学んだが、1994年に難民として家族でアメリカのオレゴン州に移住した。その後UCLA (カリフォルニア大学) で学士号、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツでMFA(美術学修士号)を取得。ビデオ、写真、パフォーマンスなど表現の幅を広げ、アーティストとしての土台を築いた。

幼少から青年期までは社会主義国であるベトナムで育ったが、戦争を背景する本人の意思とは別の事情が絡んだことで、アメリカでアートを学ぶ機会に恵まれた。田舎と都市部、共産圏と資本主義の相反する環境に身を置いたことから「広い視野とバンランス感覚をもって作品作りができている」という。飄々とした口調で語るが、時代に翻弄された複雑なベトナムの歴史をウダム自身が身をもって体現している。

■技術とチーム力の結集

ウダムは作品のディテールとスケールの両立にもこだわる。それに欠かせないのが最新技術とパフォーマンスを最大限に発揮する技術メンバーとのチーム力だ。参加メンバーの選定から制作費・スポンサー集めまでをウダム自身で担う。目指す表現を形にするため、まるで企業経営者のような目線を持ち合わせながら、自らのチームをまわしている。

「License2 Draw(2014年)」は、スマートフォンやタブレット端末で起動するアプリケーションの操作を通じ、離れた場所にいる鑑賞者が作品制作に同時に参加することができる。アメリカで生活していた頃、アフガニスタンやイエメンなどへの空爆を知り、遠隔操作で人を殺戮できる状況に対し、問題提起をしたい想いが芽生えたという。アメリカで構想し、ベトナム・ホーチミン市のエンジニアと共にシステム開発を続け完成させた。

現在も進行中のプロジェクト「Time Boomerang(2014-)」では、南シナ海をめぐる領土問題を探求している。五大陸の土地を訪れ、隣接する海にブロンズ製の手の指を落とすというパフォーマンスアートだ。
ウダムは、東南アジアと中国、日本と中国の微妙な緊張関係を扱う題材だとして「あらゆる人にとって、対話の糸口になるプラットフォームのような作品になってほしい」と考えている。現時点で8段階のフェーズのうち4段階まで完了した。アフリカ大陸と南極大陸の渡航を構想中で、2025年の完成を目指している。

新型コロナウイルス禍でも、彼の作品は世界を駆ける。台湾のアジア・アート・ビエンナーレには、ホーチミン市のロックダウン中(2021年8~9月)に作品を梱包・搬送した。アーティストという明確な軸を持ちながら、鋭い視点と情熱、スマートなアイデアで作品に向き合い続けている。

(ベトナム・ホーチミン市 中西めぐみ)

WORKS

  • License2 Draw, 2014

  • Time Boomeran gred hooded with tube and finger

アーティストについて

  • UuDam Tran Nguyen

ウダム・チャン・グエン(1971年 ベトナム中部 コンツム生まれ。ホーチミン在住。)

学歴
2005年 Master of Fine Art – School of Visual Arts – New York, NY
2002年 Bachelor of Art – University of California – Los Angeles, CA
1994年 University of Fine Arts – SAI GON (HCMC) – Vietnam

受賞歴
2014年
- Japan Media Art Festival 2014, Jury Selection, License 2 Draw - Tokyo, Japan
2020年
- Bùi Xuân Phái Prize, Phúc Tân Public Art Project, Hanoi Vietnam - Oct
- THE BEST CONCEPTUAL DESIGN PRIZE, Vietnam Design Week 22 - Oct


文責: Aura Contemporary Art Foundation / アウラ現代藝術振興財団