Exhibitions
Kathmandu Photo Gallery
Jul 11 - Sep 26, 2020
All images by Courtesy of Kathmandu Photo Gallery
この写真シリーズは、1964年〜1968年にタイ・プーケットの写真スタジオオーナー兼写真家である Liang Ewe(1911-1992)によって撮影された古いガラス写真乾板を、スキャンしデジタル化しようとした際の偶然のエラーから生まれました。理想的には、現代のデジタル・スキャナーは歴史的データをアナログからデジタル・フォーマットに正確に転送し、結果として得られたデータは正しく、正確にオリジナル資料と一致するものと信じられています。実際には、デジタルフォーマットは、スキャン、転送、送信、閲覧、プリントのいずれの段階でも、破壊、歪曲、操作が可能です。写真ファイル情報の突然のずれが Liang Ewe の肖像写真で偶然発生し、目、口、そして時には顔全体といった身体の特定部分を伝達し忘れ、これらの人々の一片が別次元の時空間に閉じ込められているような感覚を生み出しました。ホラー映画のイメージのように、口のない顔には外を眺める目がなく、別の顔には目はあるものの、音を発する口がありません。
皮肉なことに、彼らの完全なデジタルスキャン画像を手に入れることはできても、私たちは写真に写る人物の正体や物語を知ることはできません。スタジオマネージャーは、彼らの名前、年齢、出身地、職業など、モデルの記録を残さなかったからです。彼らはただの顧客でした。私たちは彼らがどんな見た目かは知っていますが、その顔には名前がないのです。
タイのような国では、歴史は王や王侯たちのものです。私たちは、平民の歴史を書くことを奨励したり促したりしない傾向があります。まるで、彼らの物語が無意味で記憶する価値がないかのように。Ling Ewe のネガの発見は、2次元のガラス板の中に生き残った過去の再発見でした。写真が発明された19世紀、ある人々はカメラによって自分たちの魂が永遠に写真フレームの中に盗まれ、失われ、閉じ込められてしまうのではないかと、迷信的な恐怖で写真を見ていました。「ロスト」(2015年)シリーズは、写真が記録するものはカメラがシャッターを切る瞬間に過去になる、ということを確かめます。私たちは、デジタルの中間地帯で失われた、これらの人たちについてまだ何も知らないのです。
フォト・アーティストの Manit Sriwanichpoom は、30年以上にわたりタイ現代美術作品を制作・発表してきました。彼の作品はタイ国内外で広く紹介されており、多くの世界の主要美術館や民間コレクションの一部となっています。
Manit Sriwanichpoom(1961生まれ)は、タイ有数の写真アーティストであり、Kasseler Kunstverein(ドイツ、2018)、Saatchi Gallery(ロンドン、2015)、RAY Fotografieprojekte(フランクフルト、2012)、Centre Pompidou(パリ、2010)、Asia Pacific Triennial(オーストラリア、2009)、Photoquai(パリ、2007)、Gwangju Biennale(韓国、2006)、Venice Biennale(2003)をはじめ世界中の美術界でよく知られています。その作品は、Maison Europeenne de la Photographie (パリ)、DZ銀行(ドイツ)、Asian Art Museum of San Francisco(アメリカ)、Smith College Museum of Art(アメリカ)、福岡アジア美術館(日本)、Queensland Art Gallery(オーストラリア)、オーストラリア国立美術館、National Gallery Singapore、シンガポール美術館といった重要な美術館や、著名民間コレクターによってコレクションされています。2007年には日本の東川賞・海外作家賞を受賞、2014年にはフランス文化省から Chevalier des Arts et Lettres を受賞しています。