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日本の若手イラストレーターも参戦! 週替わり展覧会の多彩な作品 ミャンマー美術家協会アートギャラリー

Myanmar

ミャンマー最大の都市ヤンゴンに、週替わりで展示会を行うギャラリーがある。ミャンマー美術家協会が運営するもので、地元アーティストの作品の貴重な発表の場となっている。2018年12月、日本のヤンゴン在住の若手イラストレーターが、このギャラリーでデビューを果たした。そのギャラリーを訪れると、絵画好きが手弁当で運営する、ミャンマーの美術家たちの草の根のコミュニティが垣間見えた。

展示会で美術家が語り合う草の根ギャラリー

外国人もよく訪れるヤンゴンの名所、ボージョーアウンサン・マーケット。骨董品店などが立ち並ぶ一角に、ミャンマー美術家協会が運営するアートギャラリーがある。12月26日に始まったのは、ヤンゴン・ダラ郡区の美術家たちのグループ展だ。初日の午前とあって、数十人の美術家や愛好家たちが、思い思いに作品について質問し合い、語り合っている。

ミャンマーでは異例だが、この展覧会に参加したのがヤンゴン在住の若菜郁美さんだ。若菜さんは、ヤンゴンの日系会計事務所で働きながら、小さいころから好きだったイラストを描き続けていた。ミャンマーの街角や少数民族を鉛筆でスケッチしたり、水彩で描いたりしているうちに、次第にイラストの仕事が舞い込んでくるようになった。そしてくすぶっていた絵画に対する思いが高まり、ヤンゴンで多くの人に見てもらえる方法を模索した。そして、多くのギャラリー関係者などと話をするうちに、このグループ展を紹介され、発表の機会を得たのだという。

この日のグループ展には、ダラ郡区の美術家13人と、若菜さんが出品した。作風は多種多彩だ。油彩画がほとんどだが、川向こうのダラ郡区を象徴する舟の櫂を素材とした作品もある。外国人が好みそうな少数民族をテーマにした油彩画、仏教をテーマにした抽象画、アバンギャルドなアニメ風、韓流アイドルのパロディなどジャンルは問わない。年齢層も多様で、最年少は11歳の女子学生が寺院をテーマにした油彩画を出品した。

展示と同時に販売も行い、価格帯も数十ドルから数千ドルまで幅広い。ダラ郡区の美術家たちは、年1回こうしたグループ展を開いて自分たちの作品の発表の場を作るとともに、売り上げの一部を地元の図書館整備の費用に充てるのだという。

  • ミャンマーのグループ展に出品した若菜郁美さん

  • 多彩な作品が並ぶダラ郡区のグループ展

地元の多様なアーティストが出品

主催者のひとり、シュエミャットゥンさんは、理科の教師をしながら絵画を書き続けてきた。48歳のベテランで、バナナの皮に赤ん坊をくるんだ油彩画など、食べ物をテーマにした独創的なモチーフが印象的だ。「正式な美術教育を受けたことはないが、インド美術が好きで勉強した。今回の作品はミャンマーの伝統的な構図と私の独自性を合わせたものだ」と話す。

会場でひときわ目を引いたのが、ビニール袋でかたどられたアウンサン将軍だ。赤と青のコントラストが鮮やかに描かれている。作者のペーピョーチョーさんは、「ダラ郡区が接するヤンゴン川には、多くのビニール袋が流れ着いている。物を無駄にしないということを訴えたかった」と話す。他の作品で絵具などを入れて使用したビニール袋を再利用して、将軍の肖像画がうっすらと浮かび上がるように表現した。

  • シュエミャットゥンさんの作品は、伝統と個性を融和させたものだ

  • 絵具などで染まったカラフルなビニール袋を使ってアウンサン将軍を表現

女子生徒ら若手の絵画も、かわいらしさが溢れていてほほえましい。11歳のエインチャニョティンさんは、托鉢する僧侶の笑顔を生き生きと表現している。ミャンマーでは義務教育課程で美術が教えられることが少ないため、小さいころから美術に親しむチャンスに恵まれているとは言えない。そんな中で、こうした地元グループが若手育成の受け皿となっているのだ。

ギャラリーを運営するミャンマー美術家協会は、各地の美術家たちのネットワーク組織だ。全体では1500人から2000人ほど美術家らが協力しているという。このギャラリーでは週替わりで各地の支部などが展覧会を開くほか、海外のアーティストや団体とも共同でイベントを行っている。同協会(中央委員会)メンバー、トゥンアウンチョーさんは「若菜さんはビジネスでなく、絵を描きたいという気持ちで頑張っているので応援したいと思った」と話す。同協会では今後もミャンマーの美術関係者の人材育成に力を入れるほか、「コラボイベントを通じて、日本など各国のアーティストと継続的な関係を築きたい」としている。

  • ギャラリーを運営するミャンマー美術家協会(中央委員会)のメンバー

  • 展覧会には11歳の女子学生も出品するなど人材育成の役割も果たしている

文責: Yuki Kitazumi