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バングラデシュにおける現代アート 60年史(第2章、全6章)

Bangladesh

タキール・ホサイン ( Takir Hossain ) / 訳:藪本 雄登

Sadhana Islam

1960年代半ば以降、多くの画家がナショナリズムを重視するようになります。彼らは伝統や民族的なモチーフを探求し始めました。このジャンルの画家たちは、西洋の自然主義、ベンガル派、民族表現を多かれ少なかれ混ぜ合わせて制作していました。Samarjit Roy Chowdhury、Rafiqun Nabi、Hashem Khanはこのグループの主なアーティストです。それでは、個々に見ていきましょう。

サマルジット・ロイ・チョウドリー(1937-)のキャンバスには、小さな魚、猫、蛇、鳥、動物などが描かれています。その描線はキャンバスの上を縦横に交差しています。彼の作品には男女の人物が親密に描かれています。その純粋な幾何学的構図と繊細な空間配置は、ファンタジー、リアリティ、ノスタルジアを表現しています。彼の色使いは意味深く、装飾的でもあります。初期の頃の彼は、人生の場面を絵に表すことに夢中になり、鳥、魚、船、人間の幼少期のようなモチーフを取り入れました。これらは、長年に渡り推進力が増し、彼の関心の中心は、目に見える現実から、自然の万華鏡のような内なる意味へと変化していきました。フォルムと色彩の扱いは、今もなお強烈です。民俗的なモチーフや装飾的な模様への関心は、彼のメッセージをキャンバスの至る所に広げました。近年では、民族的なモチーフをベースにした作品に現代的なアプローチを融合させようとしています。モチーフは、鳥、凧、葉っぱ、野の花、船、植物、魚など。彼の作品には、走り書きや太い線が交差し、その線は全く磨かれておらず、凹凸のある線が個性的な言語を生み出し、田園的なエッセンスを際立たせます。

  • Samarjit Roy Chowdhury

ハシェム・カーン(1941-)は、田舎の生活や日常の雑用を描くのが好きで、彼の絵は、私たちの国の大衆の声を伝えています。彼の作品には緑と黄色が多用され、様々な抽象的な形がキャンバスの中で存在感を放っています。

ラフィクン・ナビ(1943-)の絵画は、自然の穏やかな雰囲気を楽しく映し出しています。彼はまた、田舎の人々、漁師、カワセミ、壊れた橋、水牛、船、カラス、野生の花、のんびりしている人々、噂話をしている人々などの具象的な作品も描いています。風景画は見る者を高次の世界へと誘い、光と影の様々な組み合わせでモチーフを配置しています。

1971年のバングラデシュ独立後、アートシーンでは、新たな国家の志を多面的な表現で描くことが改めて謳われるようになりました。この間、多くの画家が独立戦争を題材にし、積極的に戦争に参加した画家も少なくありません。独立後、彼らは自分たちの体験を美術で表現しました。また、伝統や遺産への探求が活性化し、具象への回帰が進み、1970年代の世代は多様な素材や手法を用いて活動を開始しました。

独立後、別の変革が私たちの芸術界で起こっていました。画家たちは自分たちを解放し、芸術的な創造性を十分に探究できるようになったのです。その間、多くの画家が世界の様々な場所でより高い訓練を受けました。何人かは永久にそこに住み、新たな展望に自分自身を確立しようとしました。外国在住の画家として、モニルル・イスラム(マドリッド)とシャハブッディーン・アーメド(パリ)の名前が知られるようになってきました。両者とも、その制作スタイルは異なっています。

モニルル・イスラム(1942-)の版画は、すぐに見分けることができます。彼は人生の多様な次元を、その特徴的なスタイル、技法、革新性によって、魅惑的な作品に変換することができるのです。そこでは、落ち着いた色、叙情的な線、繊細な質感と形が調和的に融合しているのです。彼は、自身の表現媒体と技術を、卓越した習熟度で巧みに操ります。彼の得意とするところは繊細な線、空間の使い方と構図のバランスです。空間の利用は彼の絵画や版画の重要な側面であり、彼は珍しい構図や形を使った作品を好み、それらを驚くほど明瞭な表現に変えています。自然を敬愛するモニルルは、作品を通して周囲の環境に存在する色や調和を再現しようとしています。彼の作品に見られる空間は、テーマの捉え方と適切に関連しています。彼の作品には、落書き、シャープな線、点、小さなモチーフ、そして多くの記号が使われています。

  • Monirul Islam

シャハブッディーン・アーメド(1950-)は、セルビアの画家ウラジーミル・ヴェリコヴィッチの影響をいろんな面で受けています。アーメドの特徴は、生き生きとした人物と、その激しい動きです。それぞれの動きは、独特の表情と言葉を生み出しています。その言葉は、この国の激動の誕生とその重要な側面と密接に結びついています。彼の絵画は、恍惚、愛情、苦悩が要約されているのです。

1970年代初頭、1980年代、1990年代初頭の間に、多くの熱心な画家たちが、素晴らしい熱意と喜びを持って脚光を浴びました。バングラデシュの芸術が、この画家たちによって豊かになったことは間違いありません。彼らの作風は大胆で示唆に富み、そのテーマは私たちの政治的、社会的、文化的な活動領域を明確に可視化しています。これらの画家の中には、純粋な写実主義で表現したものもいれば、純粋な抽象、半抽象、シュールレアリスムで表現したものもいます。Syed Abdullah Khalid, Mahmudul Haque, Hamiduzzaman Khan, Kalidas Karmakar, Abdus Shakoor Shah, Dr Abdus Satter, Shahid Kabir, Tajul Islam, Matlub Ali, Chandra Shekhar Dey, Farida Zaman, Mominul Reza, Kamal Kabir, Sadhana Islam, Ranjit Das.Naima Haque、Mohammad Eunus、Jamal Ahmed、Mostafizul Haque、Ivy Zaman、Shiekh Afzal、Kanak Chanpa Chakma、Kazi Rakib、Afrozaa Jamil Konka、Mohammad Fokhrul Islam、Mohammad Iqbal、Maksudul Ahsan、Goutam Chakrabortyがこのグループに属しています。それでも彼らの作品は、自身の専門性を生かして異なる領域を創造することを助長しました。

サイード アブドラ ハリド(Syed Abdullah Khalid 1942 -2017 )は、主にバングラデシュの季節の花を扱っていました。春の花、特にソナル、ラダチュラ、クリシュナチュラの鮮やかな色彩に圧倒されます。画家は、異なる色の花のパッチを含む木の枝をクローズアップしたビューを使用し、その後、色の顔料をはねかけることによって作品を歪めました。抽象表現主義者であるハリドは、色とその様々な側面に焦点を当てていました。彼はまた、構造化されていない形や曖昧な構図の実験も行っており、それは彼の作品に細心の注意を払って使用されています。直接色を塗り、キャンバスに厚く、時には薄く重ね、大胆でダイナミックなイメージを生み出しました。力強い筆のストロークは、意図的ではないテクスチャーの状態を作品に作り出しています。時には絵画特有の要求に応じて、意図的にテクスチャーを作り上げることもあります。彼は、常に絵を描くことに集中しており、それが彼の作品に個人的な特徴を生み出しています。長い波瀾万丈の人生の中で、ハリドは次第にそのスタイルを純粋な印象派へと変えていきました。

  • Syed Abdullah Khalid

マフムドゥル・ハク(Mahmudul Haque 1945- )は、構図と形に魅了され、油彩、アクリル、版画を制作してきましたが、それらはソリッドなフォルムと構図の使用によって特徴付けられました。彼は熱心に新しい試みを行い、新奇な形や技法を試すことを好み、その変化は主に技術的なものであり、時には空間や構図をより意識しているようにも見えます。彼の作品は、万華鏡のようなパターンと空想の世界を探求しています。

ハミドゥザマン・カーン(Hamiduzzaman Khan 1946- )は、彫刻、絵画、ドローイングなどの作品の中に平和を見出しています。彼の彫刻のほとんどは、スチール、コンクリート・セメント、ブロンズ、その他の金属を使った、様式化された具象的なものや抽象的な形をしたものです。また、ハミドゥザマンは絵画にも挑戦しています。彼のインスピレーションを受けたイメージは、自然との共生関係を呼び起こし、風景と幻視の融合により、アーティストが自然の最上に上品な色彩と景色を有利に使用できるようにします。ハミドゥザマンの作品には様々な段階があり、簡単に識別することができます。彼は、色、線、彫刻や建築のイメージを用いて新しい言語を創造することができました。

  • Hamiduzzaman Khan

カリダス・カルマカール(Kalidas Karmakar 1946-2019 )は、生涯、傍観者として、社会の変容する社会政治的、経済的条件を注意深く観察しました。一般的に彼は自然主義者と風景画家として出発しましたが、彼のキャリアの初期段階で、自然が彼の作品の中に大きな役割を持っていました。彼は、常々、自然には素晴らしさ、神秘性、匿名性の無限の源があると感じていました。葉を介してフィルタリングする光、川の波の音、自然の静けさ、密な葉、自然の中での光と影の遊び、動植物だけでなく、多くの垣間見ることができる精巧な細部にインスピレーションを発見しました。これらの要素の一つ一つに、彼にとっての新たな物語が含まれています。カリダスのイメージは、怒り、フラストレーション、苦しみ、死、破壊を反映しており、彼の被写体は、戦争、洪水、サイクロン、飢饉、政治的、経済的混乱の時代におけるバングラデシュの一般的な人々の悲惨さをカプセル化しています。

タジュル イスラム(Tajul Islam 1946)は、彼の仲間であるRashid Chowdhury に触発され、特にパターンと色の構成の面で彼の個性的なスタイルを確立しました。 明るい色、幾何学的な構成、花のイメージと有機的な形態は、彼のタペストリーの繰り返されるテーマです。タジュルは自然とその要素に深くインスパイアされ、タペストリーには、いくつかの開けた空間が描かれます。多くは、見慣れない形やぼやけた構図、人物などが混ざり合ったシュールレアリスティックなイメージを描いています。また、波、半波、曲線、半曲線、半円、断片など、リズムを感じさせる作品を制作しました。

マトルブ・アリ(Matlub Ali 1946- )は、様々なテーマに取り組んできたが、そのテーマをマトルブ特有なスタイルと技法で描いています。彼のテーマは常にベンガルの土壌や人々と密接に結びついており、その作品の多くは、純粋な抽象性を深く掘り下げています。彼の作品の中で、テーマが象徴的に、そして時には絵画の特徴に応じて表現されているのがわかります。また、彼は半現実的なイメージ(水平、垂直の線や構図に焦点を当てたもの)を描くことを好み、作品の中には、リアリズム、半リアリズム、純粋抽象、抽象表現主義、新表現主義など、彼の表現を象徴する様々なシンボルやしるしを取り入れることを試みた作品もあります。

  • Matlub Ali

アブドゥス・シャコール・シャー(Abdus Shakoor Shah、1947- )は、彼自身の民俗であるモチーフと視覚的な物語で広く知られています。1996年からの長いキャリアの中で、シャコールは民俗モチーフに取り組んできました。有名なMahuaとMaluaの愛の物語である"Mymensingh Geetika"のバラード、"Nakshi Kanthar Maath"、"Gazir Pat"と"Manasha Pat"は、彼の作品の中で繰り返しテーマになっています。象、雄牛、犬、猫、虎、オウム、孔雀、鳥、蛇などの動物をモチーフにしており、それら全て楽しく装飾的です。

  • Abdus Shakoor Shah

アブドゥス・サッター博士(Dr Abdus Satter 1948- )は、東方美術界の著名な弟子の一人です。彼は東洋的な表現の中で、細部にまでこだわり、弾かれたかのような才能を発揮しています。彼は通常、自然の中で女性を描き、また、象徴的な方法で女性の顔、鳥や自然の様々な側面に焦点を当てています。彼の描く顔は夢、信念、欲望を象徴しています。暖かみのある色、技術的なディテール、まろやかな質感の強さは、彼の作品の共通の特徴であり、そこには洗練された静けさが感じられます。長年にわたり、座っている女性、観想的な女性、ロマンティックな女性が作品のテーマとなっています。彼の絵画や版画は、線と色が重要な要素である叙情的な抽象と絵画的な表現の間の難しい妥協を試みています。

チャンドラ・シェカール・デイ(Chandra Shekhar Dey 1951- )は細部にまで踏み込んで描くことを好み、彼の線は刺激的に興味を掻き立てます。チャンドラの作品には、走り書き、線、ぼんやりとした人物、見慣れない物体が目立ちます。作品は一貫して、闘争の苦悩、欲望の力、喜びの強さが脈動しています。チャンドラはバングラデシュ独立戦争によって人生観や芸術観が大きく変化した世代の画家の一人です。光と影のコントラストが鮮明な作品の多くは、喪失感と痛みの記憶を呼び起こします。民俗的な要素、神話の断片、鮮やかで相互に作用し合う形態などを組み合わせ、現実とフィクションの間のギャップを埋めるような作品を制作しています。

ファリダ・ザマン(Farida Zaman 1953- )わが国で暮らす漁民の生活を描いた作品が目立ちます。社会を意識した画家として、彼女の作品は労働者階級の過酷な生活を浮き彫りにしており、漁師の女性たちの苦悩やジレンマが描かれ、漁民の残酷な現実を雄弁に表現しています。ファリダは魚、漁網、海や川の鳥を得意なモチーフとしています。また、猫や、色味が暗く痩せた女性なども繰り返される彼女の絵画の題材となっており、線画は、ファリダの主要な芸術的特徴の一つです。彼女は、広々としたキャンバスに深紅、青、黄色を好んで使用します。彼女の絵画は、イラストレーションのようにも見えます。

モミヌル・レザ(Mominul Reza, 1951-2019 )は、ボグラに住んでいた観想的な画家です。画家の描く形とテーマはシンプルですが、その配置と人に訴える力が際立っています。彼の絵画はその光の質感が卓越しています。それ以前の彼の作品では、ハンガーや洗濯ばさみが繰り返される題材となっていました。直線的な線とサイケデリックな色が作品に独特の表情を与えています。生前、この画家は色と形だけでなく、青と緑が相互に密接に混ざり合う構図に焦点を当てていました。

カマル・カビル(Kamal Kabir 1951- )の目的は、水面下の世界の神秘を捉えることでした。その世界は彼を常に戸惑わせ、彼の水の世界に対する美しさと思索の探求は、自らの絵画の中で、海洋世界の活気に満ちた陽気な姿を取り上げる原動力となりました。水の世界の詩情は、彼の中に、海の世界とその周辺の音、色、リズムを聞き取り、解釈することを可能にする感性の波を生み出しています。カマルの線(太くて走り書きのような)と色の強さは、水中の世界からインスピレーションを得て、より伝統的なスタイルから、幅広い視野と想像力を伝播させる半抽象へと進化しています。カマルのキャンバスは、時に色彩と曖昧な形を持つ抽象的なイメージをふんだんに盛り込んでいます。しかし、この半抽象化は、見る者がこの画家の思いや思慮深さを感じることを妨げるものではありません。

  • Kamal Kabir

サダナ イスラム(Sadhana Islam 1954- )は、バティック(更紗の一種)を表現手段として人気を博しています。彼女のバティック作品は伝統的な物語を描くだけではありません。彼女はバティック作品に人間の姿や、鳥や自然、動物などを含んだ装飾文字をスタイリッシュに使うこともあります。それぞれの作品には、ベンガルのアイデンティを際立たせる物語が描かれています。彼女の作品は、地元の神話、信仰、光景と密接に関連しています。バティックの他にも、エッグテンペラを使った絵画も数多く制作しており、民族的なモチーフにも広く焦点を当てています。彼女のキャリアの長いスパンで、民俗的なモチーフや古代のバラッド(物語詩)に取り組んできました。また、彼女は様々な種類の鳥、田舎の生活、社会的、文化的、宗教的な儀式、船、川の生活、緑などすべて楽しく装飾的なモチーフを題材にして制作しています。バティックやエッグテンペラの他にも、アクリル、油彩、ドライパステル、木炭などを使った作品を制作しています。彼女の作品の多くは、田舎風や素朴な要素、様々なジャンルの花や鳥、水差しを運ぶ田舎の女性、木の下で笛を吹く農民、青々とした葉、雄牛や水牛などに焦点を当てています。

  • Sadhana Islam

ランジット・ダス(Ranjit Das 1956- )は、その時の社会文化的、政治的な大勢を動かすための手立てとして、社会生活や時間の流れに視点を定めました。彼がバングラデシュで最も多才な画家の一人であり、肖像画、風景画、社会・政治・経済問題やその他の社会的トピックの視覚的描写にも長けていることは疑いの余地がありません。ユニークな特徴として、この画家は様々な実験の段階を経て、それぞれのプロセスが独特の芸術的な視点を視覚化しています。ランジットの描く人物が、憂鬱、至福、怒り、同情的で不安定な感情状態などが、しばしば深く刻み込まれた数多くの心の状態を明瞭に表現していることは深く認識されてきました。彼は常にドローイングの中で感情的な描写を提供する試みをしており、人間が肉体的にどのように見えるかを描写するだけでなく、精神的、感情的な状態をも捉えたドローイングや絵画作品を制作したいと考えてきました。また、この画家は多くの驚くべき表情を伝える図象化された多数の動物の姿を描いてきました。

  • Ranjit Das

ナイマ ハケ(Naima Haque 1956- )絞り込まれた投影を伴う優美な現実感があります。彼女の作品は純粋さと精神性を表し、そこには柔らかな色彩と小さなフォルムが際立っています。ナイマは天性の色彩感覚を持っており、それが彼女の作品を生き生きとした表現力豊かなものにしています。スケッチをベースにした人物や様々な動物の形をした明るい色彩もまた、彼女の作品の繰り返される特徴であり、また、イラストレーターとしても知られています。彼女の作品の中には、純粋な抽象化の繊細なタッチを持つものもあります。走り書きや長方形の形態は、様々な色調に対比されています。彼女の作品は、グラフィックな線も強調しています。ナイマは、油絵、アクリル絵、水彩画、クレヨンなど、どのような表現手段にも精通していますし、また自分のスタイルを変えることが好きです。作品の構図の中で、彼女は何かを伝えようとしていますし、その色と形は多くの人に語りかけるのです。

モハマド・ユヌス(Mohammad Eunus 1954- )の絵画は、力と真実と啓示の波のように私に衝撃を与えました。彼は、ロマンティックな風景、郷愁、社会の混乱など象徴的に描き、原始的な神話的モチーフを描いた上で、床やイーゼルの上にキャンバスを置き、その上に絵の具を投げたり、擦ったり、たらしたりします。そして、無定形な外観や形態を最小限に抑え、美的にバランスのとれた外観を加えています。ユヌスは、熱烈な傍観者として、国の社会・政治・経済状況の変化を注意深く観察しています。彼の形に対する巧みな扱い、散りばめられ、抑えられた素描、意識された筆使いは、自然でありながらも同時に作為的な伝達手段を生み出しています。彼独特の色彩は、喜びと恍惚感のための視覚的な遊び場を起想させながら、まろやかさと大胆さの間で揺れ動き、荒々しさと制御との間を描いています。

  • Mohammad Eunus

ジャマル・アーメド(Jamal Ahmed 1955- )は、は、ベンガルの美しい風景と、曲線的フォルムが美しい魅力的な女性、ジプシーの女性、船頭、洪水の被害を受けた人々、田舎の美しいパノラマ、川に住む人々、大都市、バウル(ベンガル地方の歌い人)、托鉢者、労働者階級の人々を何十年にもわたって描くことに成功しています。鳩、馬、漁師、恵まれない人々とその日常的な仕事は、彼の絵画の中で繰り返されるテーマです。田舎の生活とその人々を描くだけでなく、ジャマールは優れた肖像画家でもあります。写実的表現は彼の強みであり、アクリルをベースにした絵画は、男性や女性の肌の色や布地の質感を正確に表現しています。

モスタフィズル・ハーク(Mostafizul Haque 1957- )は、筑波大学で日本画を学びました。彼の絵画は具象的な(特に動物的な)要素を特徴としています。特に馬、水牛、ハゲワシなどの動物を様々な視点から描いています。また、ハークの作品は、地面の凹凸やしっかりとしたフォルムを特徴とし、キャンバスの様々な部分で変化に富んだ色調で描かれています。

アイビー・ザマン(Ivy Zaman 1958- )は、自身のテーマに沿った彫刻や絵画で知られています。彼女はフォルムと純粋な構図に焦点を当てています。彼女が生み出す自然を背景にした官能的な姿は、写実的であると同時に、非常に美しく優雅でもあります。作品をよく見てみると、アイビーの作品は、彼女の身の回りで見つけた地元の素材と元型的なイメージとを結びつけようとしているのがわかります。アイビーは鳥や動物、種や根、木、葉などの植物モチーフの多様性やその土地固有の形態の数々など、表現の境界を探っています。ブロンズやその他の金属(彫刻用)を用いた作品は、バングラデシュの美術界で注目されています。彼女の彫刻の構成と形の中で、根底にあるメッセージは自然の永遠の美しさです。この自然に対する変わらぬ愛は、ボグラでの幼少期にまでさかのぼります。アイビーと友人たちは夜更けまでコトロア川のほとりをよく散歩したものでした。提灯のついた船や銀色の月明かりが川に映る様子に魅了されていました。他にも、帰路につく鳥の群れや静かな暗闇など、長く心に残る思い出がありますが、それらはすべて彼女の作品の中で生き生きとした斬新な方法で表現されています。

  • Ivy Zaman

シェイク・アフザル(Sheikh Afzal 1960- )は、牧歌的な緑と木々の葉、川辺の生活や、田園的な文化の雰囲気を深く掘り下げています。彼は季節の変化、静かな風景、池、ひざまで深い川で棗椰子ジュースの収集や釣りに従事する人々、秋のからしなと緑の水田、雨の日と冬の日を好みます。彼は、本質的に調和の中にある風景を描いています。アフザルは都会に住んでいますが、自らの生まれ故郷(ジェナイダー)との濃密で忘れ難い記憶は、不動のままであるように思えます。だからこそ、彼の絵画の主題は、田園的な生活とその生き生きとした変化を繰り返し表現しているのです。

カジ・ラキブ(Kazi Rakib 1958- )は、ガラス絵の明確な創造性を表現することで有名なアーティストです。彼は、細心の注意と勤勉さをもって、人物や非具象的なモチーフ、顔、動植物、魚、緑の葉、小石や石、さらには水中世界が強調された多くのガラス絵を制作しました。創造的な性格を持ちながら、ペン、鉛筆、水彩、アクリル、パステル、オイルパステル、油彩、スクリーンプリント、コラージュ、テラコッタ、木版画、ゼログラフ、銅、鉄、ガラスなどを用いて制作してきました。彼の絵画は、色の本質や色が本当に意味するものについての表現を生み出しています。長年にわたり、彼は多くの技法を生み出してきましたが、それらは非常にお金と時間がかかり、計り知れない努力と献身を必要とします。

カナック・チャンパ・チャクマ(Kanak Chanpa Chakma 1963- )は、長い間、民族をテーマにした作品を制作してきました。彼女の作品は常に先住民族の人々とその日常生活を題材にしています。堂々とした質感とまろやかな表面、そして緻密な空間が、彼女の作品に個性的な特徴を与えています。彼女は土着の衣装の鮮やかな色彩、丘陵地、森林、ジュムの栽培、手つかずの青く澄んだ滝、ダンス、音楽など、バングラデシュの丘陵地での生活を特徴づけるものすべてにインスピレーションを受けています。彼女の作品は、仏教とその様々な精神的側面に関連した静謐な雰囲気をも捉えており、その作品には、半現実的なものと抽象的なものが混在しています。作品に描かれている人物は生き生きとしていて、その表情豊かな特徴が見る者に伝わってきます。

サミラン・チャウドゥリー(Samiran Chowdhury 1963- )は、現在では純粋な抽象画家として認識されており、精神世界や感情をテーマにした作品を、心地よく華やかに描くことを好んでいます。サミランの絵画は、精神的な強さに満ちていて、見る者に大きな感情的な力を与え、熟考と瞑想を促します。自身の芸術的なキャリアのある時点で、彼は男性と女性、動物、凧、人力車、ボート、船、鳩やひまわりといった、具象的な作品を制作しました。その間、彼は多様な背景に対して女性の姿を描くことに大きな情熱を持っていました。

  • Samiran Chowdhury

アフロザージャミル・コンカ(Afrozaa Jamil Konka 1963- )初期の頃に東洋美術から写実的なアートへと変化しました。専攻を変えながらも、現在の制作スタイルと東洋美術との相関関係を維持しようとしています。彼女は主に女性の顔や自然の様々な側面に焦点を当てており、その顔は、彼女の夢や信念、願望を象徴しています。大胆な線、荒い質感、鮮やかな色彩などの表現で、彼女は自分の見解を明らかにしています。最近では、この画家のテーマは様々な社会的、政治的、環境的な問題を映し出していますが、最近の展覧会では、これらの問題とは別に、鳥や動植物が脚光を浴びています。

モハマド・フォクルル・イスラム(Mohammad Fokhrul Islam 1964-)は、点、単色のイメージ、建築的な線を探求しました。フォクルルの作品の明確な特徴は、輝き、シンプルさ、直線性です。より注意深く彼の作品を見ると、無数の線と色調の組み合わせが見られます。しかし、面白いのは、その線と色調が彼の作品に混沌とした影響も単調な影響も与えていないことです。

モハマド・イクバル(Mohammad Iqbal 1967-)は、主にテーマに基づいた絵画で知られています。彼のキャンバスには、明瞭な姿やぼんやりした姿の様々な人物で溢れています。ほとんどの彼の構図の背景は、抽象的な形、楽しい色、柔らかい色調で占められています。彼は油絵が好きで、日本で油絵美術の高等教育を受けたこともあって、ほとんどの彼の絵画は油絵です。高等教育を受けに日本に行く前は、彼の作品は聖人やバウル(バングラデシュの吟遊詩人)に焦点を当てたものでした。イクバルの作品には、中年の人物、子供、動物、古代の建造物、川、船、丘、空などをモチーフにしたものもあります。彼の絵画の中には、純粋な構図を強調したものもあります。その構図からは、彼が半透明の線や小さな形を好んでいることが伝わってきます。

  • Mohammad Iqbal

マクスドゥル・アフサン(Maksudul Ahsan 1966-)は、1990年代初頭に認知されるようになった傑出した思慮深い画家の一人です。社会生活や都市生活、そしてその社会経済的側面とその周辺の雰囲気が、彼の様々な時代の作品に大きな影響を与えてきました。彼の作品は、幼少期、自然、社会的・政治的混乱、亜大陸の分割とその後の影響、人間関係、個人的な損失、社会的不正、性差別などに深く踏み込んでいます。社会を意識した画家として、マクスドゥルの絵画は常に社会的、政治的混乱、人間の心理的混乱を浮き彫りにし、私たちの周りにある感動的で注目すべき光景を描き出しています。異なる時代に描かれた何枚かの彼の絵画の中には人物と動物の動きの両方が、同時に捉えられているものもあります。マクスドゥルは象徴的に強さと力に焦点を当てています。また彼は、大衆の勇敢さをも強調しようとしています。

グータム・チャクラボルティ(Goutam Chakraborty 1965-)は、彼の細密画で知られています。完璧を求めて、彼は一つの作品に多くの時間を費やします。この画家は、爽やかで叙情的な手法により、キャンバス上で魅力的な形と繊細で控えめな色使いを使用し、自らの創造性を発揮することで、注目すべき芸術家としての地位を確立しています。彼は、半現実的、半抽象的、時にはシュールレアリズム的な方法で作品を制作してきました。グータムは多くのテーマに取り組んできました。彼の動物の世界は象徴的な効果に富んでいて、それは猫、馬、象などで構成されています。グータムの作品の興味深い点は、それぞれの構図の中に真紅、黄色、白の線条があり、時にはまっすぐに、時には曲がっていることが多いことです。

  • Goutam Chakraborty

バングラデシュのアートシーンにとってもう一つの重要なイベントがアジア・アート・ビエンナーレでした。1981年、最初のアジア・アート・ビエンナーレはダッカで開催されました。それ以来、フェスティバルは、バングラデシュのシルパカラアカデミーによって開催されています。このビエンナーレは、アーティスト、芸術愛好家や批評家の間でお祭り的な気分をもたらし、海外の画家の作品や作風、技法、テーマを紹介する機会となりました。我が国のアーティストたちは、新しいアイデアと技術を持って準備を始めました。この頃から、若手を中心に、テーマ、線、構図、形、質感などの実験的制作を始めます。この時期には、多くの優秀な画家たちが自分たちの特徴や個人特有な言語を確立しようとしていました。

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著者について
タキール・ホサイン (Takir Hossain) は、美術評論家、文化キュレーターとして、長い間、現代のバングラデシュの芸術と文化について情報発信を続けている。彼の強い関心は芸術と文学にあり、美術評論家としての批評は、多くの著名なアーティストの書籍、パンフレット、バングラデシュ国内外の美術雑誌、その他多くの創造的な出版物に掲載されている。また、国内外のセミナーで講演を行うことも多く、数々のアート・コンペティションやカーニバルの審査員も務め、ヨーロッパやアジアの様々な国で開催された国際的な展覧会の取材活動を行っている。
ライター連絡先:takir75@gmail.com