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タキール・ホサイン ( Takir Hossain ) / 訳:藪本 雄登
Imtiaj Islam Shohag
1980年代初頭から1990年代後半にかけて、多くの才能ある画家たちが自分の好きな分野で勉強するために海外に移住しました。その中には海外での活動に成功し、ヨーロッパの現代美術の中で地位を確立した者もいます。彼らは海外に住んでいますが、バングラデシュとの魂の繋がりはそのままのようです。Shahid Kabir(スペイン)、AKM Alamgir Haque(カナダ)、Sahadat Hussain(フランス)、Khurshid Alam Saleem(アメリカ)、Tajuddin Ahmed(カナダ)、Ruhul Amin Kajol(デンマーク)、Iftikhar Uddin Ahmed(カナダ)、Babul Mahmood(カナダ)、Imtiaj Islam Shohag(フランス)など、様々な国に住んでいる画家たちです。それでは彼らの作品を見てみましょう。
シャヒド・カビール(Shahid Kabir 1949-)は、抑圧された人々、彼らの日常の決まりきった仕事や、それに使用する物だけでなく、私たちの周りにある見過ごされがちなものをテーマに情熱的に描いています。彼の作品は特に恵まれない搾取された地域社会を取り上げており、そこにある窮乏と苦難は、作品の繰り返しの主題です。彼は作品の中で、彼らの苦しみや言い尽くせない程の悲惨さを表しています。カビルは1980年代にラロン(ベンガルの歌手、作詞、作曲家、詩人)とバウル(バングラデシュの吟遊詩人)をテーマにしたシリーズで有名になりました。その後、彼は日常生活の中にあるものに焦点を当てた作品を制作しています。水の器、ティーポット、花瓶、腐った果物などは、彼の作品によく見られる題材です。また、レンガ工場や川の風景、働く女性なども彼の作品に登場します。カビルの表現方法は決して単一ではありません。写実的、半写実的、印象派など、彼の作品には様々な表現方法が明らかに見て取れます。
アラムギール・フーク(Alamgir Huque 1953-)のテーマは、自然から彼の身近な環境、つまり政治的な混乱、そして、なんといっても、人々の喜びと悲しみに至るまで多岐にわたります。サスカチュワンに滞在したことがきっかけで、自然に傾倒するようになりました。空気、水、土、すべての自然の要素は、彼の見解では、場所や地域に関係なく本質的に同じままであり、したがって、自然は彼の作品の中でいつも必ずそこにあるものとして扱われています。アラムギールは断続的に様々な表現媒体の間を試行錯誤しながら、その都度、新たな興味と深い探究心を持って一つの表現媒体に戻り、決まって、新たな見方をそこにもたらすよう努力しています。ここ数年(2008年から現在まで)、アラムギールはコラージュの中で様々な種類の紙や素材を使った制作を試みており、幾つかの例を挙げると段ボール、ジーンズの端切れ、ボロ紙、九条紙、様々な手漉きの紙、装飾紙、リネンの布、木片、紙やすりなどをコラージュに使用してきました。
Alamgir Huque
シャハダット・ホサイン(Shahadat Hossain 1955-)は、1987年からパリに住むアーティストです。アーティストにとって、バングラデシュ独立戦争は今もなお人生の重要な事実であり、彼は今も昔の痛みを抱えています。現在の彼の作品は、より簡素なものになっています。線や質感の表現は最小限に抑えられ、色彩は大胆で明るいものを使用しています。色調の変化はあまり見られず、見慣れたものから見慣れないものまで、様々な形、彫刻的な形、原始的なモチーフ、民族的なテーマ、種、果実、根、木、葉などの植物的なモチーフ、そして多くの土着の形などを用いて、表現の境界線を探り続けています。
Khurshid Alam Saleem (1951-)は、自然とその様々な姿からインスピレーションを得ています。強烈な筆づかいと大胆な色彩構成が、彼の抽象性の高い作品を特徴づけています。抽象表現派の画家であるサリームは、深い赤、エメラルドグリーン、鮮やかな黄色、燃えるような深紅、そして落ち着きのある瑠璃色などの色が厚く重なり合う純粋な形と構図の構成に集中しています。大小の棒、円、なぐり書きのような一筆、丸い形が互いに融合しあい、それはバングラデシュの四季を思い起こさせます。
Khurshid Alam Saleem
タジュディン・アーメド(Tajuddin Ahmed 1956-)は、私たちの街オールドダッカの歴史的な地域の一つである、ロコンプルで生まれ育ちました。この場所は、古代の建物や建築遺産としても知られています。変わりゆく都市、都市生活、社会経済構造、普通の人々とその生き方は彼の心に大きな影響を与えました。これらのすべてのことが彼の絵画では入念に取り上げられています。時とともに、Tajuddinは自分自身に磨きをかけてきました。その結果、新しい線、形など様々な種類のものが彼の絵画に追加されてきました。
Tajuddin Ahmed
Iftikhar Uddin Ahmed (1960-)の作品は、主に社会の不利な立場にある人々や剥奪された人々を表現しています。彼の作品は、人力車、車輪、売春、労働者を強調しています。徐々に彼の作品からは人物が消えていき、様々な種類の形、記号、画面の質感表現、楕円形、三角形、長方形の形や線がキャンバスを覆うようになっていきました。幾何学的な構造や建築的な視点は、彼の作品に新たな視点を与えています。隣接する柱、厚板、壁、壊れた柱、コンパス、壊れたドア、窓、メートル単位の目盛り、散らばった紙などが作品の中で繰り返し登場します。
Iftikhar Uddin Ahmed
バブル・マフムード(Babul Mahmood 1969-)の絵画は、厚みのあるテクスチャー、鮮やかな色彩、凧、回転するコマ、糸巻き、魚、茂みなどの様々な物の形を特徴としています。強い筆づかいと繊細な精神の表現は、アクリルと油彩をベースにした彼の絵画において2つの大きな特徴でもあります。画家は、心配事がなく何でも可能だった子供時代のノスタルジーを大切にしています。コマ回しや、凧揚げに熱中したものでした。彼は子供時代のテーマに集中し、そのテーマをさまざまな構図、色、形で表現しようとしてきました。動きのある曲線、丸や四角のフォルム、長方形や三角、そして破線に加えて、光と影を巧みに利用した作品は、明らかな成果をあげています。作家の「Underwater World」シリーズは、水中での陽気で自由奔放な生活を表現しています。このシリーズでは、水の世界に生息する小魚や緑の茂み、未知の群葉の生き生きとした様子も表現されています。自然を基調とした彼の作品では、深紅と黄色が目立ちます。色は彼に考える場を与え、瞑想的な世界へのさすらいの象徴となっています。
Babul Mahmood
Imtiaj Islam Shohag (1973-)は、主にテクニックを基本としたスタイルを作り上げました。よく描かれた人物も、彼の描写を特徴づけています。彼の作品の興味深い点は、それらがしばしば自然災害や大惨事を強調していることです。Shohagの描写は、断片的な光景を情熱的に表現しています。彼は形と構図に深く関心を持ち、色は鮮やかです。この画家は、加熱した蝋を使用し、それに着色顔料を加えた蝋画法で作品を制作します。そして、ペーストは木やキャンバスなどの表面に塗布されます。
Imtiaj Islam Shohag
80年代、90年代の大きな特徴は、多くの女性画家が本格的な画家として登場し、その多くが、女性や子どものハラスメントや差別、森林破壊、河川侵食、宗派主義、社会的不寛容など、さまざまな社会的、文化的、環境的問題に取り組んでいることです。この分野では、アティア・イスラム・アン(Atia Islam Anne)、ニルファール・チャマン(Niloofar Chaman)、ナズリー・ライラ・マンスール(Nazlee Laila Mansur)、ディララ・ベガム・ジョリー(Dilara Begum Jolly)、ムルシダ・アルズ・アルパナ(Murshida Arzu Alpana)が最も有名です。アーティストたちは、自分たちの芸術的創造性を、超現実的、半現実的、具象的、象徴的、抽象的、半抽象的、コンセプチュアルなど、さまざまな方法で表現しています。彼女たちの作品の中には、物語性や不条理な芸術に深く踏み込んだものもあります。多様な社会的ジレンマを第一の焦点とし、その声が反体制的なものと酷似していたことから、彼女たちは社会意識の強い画家であると考えられています。彼女たちの絵画は、私たちの社会に於ける例外的なもの、特に現在フェミニストたちが第二の性と呼んでいるものについての、個人的な見解、経験、理解、深い知見を明確に表現していますし、それらのキャンバスは、女性の悲しみ、ニーズ、絶望、フラストレーションに焦点を当てています。彼女たちの作品には、誰もが共有する人生の不幸を体現しながら、抗議し、苦悩に耐えている人々の姿が溢れていますが、女性のテーマに加え、汚職、見当違いの理想主義、宗教的偏見など、様々なテーマも扱われています。
この間、私たちのアートシーンにはもう一つの特徴が加わりました。画家たちが海外で大規模に作品を発表するようになり、多くの外国人画家たちが展覧会のためにやってきたのです。海外の画家たちは、バングラデシュの画家たちと自分たちの経験や考え方を交換していました。そして、その機会こそが、画家たちに再び自分自身を探求する機会を与えたのです。かなりの数の若い芸術家が、鋭い意識を示し、アイデンティティや伝統のような問題について、より客観的な理解を持って折り合いをつけ、グローバリゼーション、宗派主義、フェミニズム、環境、経済的・社会的差別など、国内外のより現実の問題に直結する問題に、同時代的で著しく特徴的な表現方法で向き合おうとしています。
80年代のもう一つの重要な側面は、アーティストのニサール・ホサインが、ダリ・アル・マムン(Dali Al Mamun)、ディララ・ベガム・ジョリー(Dilara Begum Jolly)、ハビバー・ラーマン(Habibur Rahman)、シシル・バタチャカルジー(Shishir Bhattacharjee)、サイードゥル・ハーク・ジュイーズ(Saidul Haque Juise)などの同時代人と共に、80年代の初めに「ソモイ(Somoy)」(英語でTime)と称するグループを結成したことです。このグループは、宗教的偏見、迷信、政治的、社会的差別を作品を通して取り上げています。ここでは、芸術があらゆる悪行に対抗する声となっています。彼らの表現方法は、「芸術は美である」というようないわゆるお決まりのやり方とは異なっており、彼らは反体制的であると考えられています。圧力団体である彼らは、確立された芸術の伝統に切り込むために、意図的に当局と一般市民の両方にスキャンダルとショックを与えるように考案された不条理芸術の展示会など、様々な表現を駆使するインパクトの強い戦術を取りました。その後、グループは定期的に芸術活動を続けていたわけではありませんが、中には個々のパラダイムに焦点を当てた活動を行う者も現れました。若い世代のアーティストたちが、自分たちのビジョンやイマジネーションを違った形で考え始めたのは、この頃だと思います。
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著者について
タキール・ホサイン (Takir Hossain) は、美術評論家、文化キュレーターとして、長い間、現代のバングラデシュの芸術と文化について情報発信を続けている。彼の強い関心は芸術と文学にあり、美術評論家としての批評は、多くの著名なアーティストの書籍、パンフレット、バングラデシュ国内外の美術雑誌、その他多くの創造的な出版物に掲載されている。また、国内外のセミナーで講演を行うことも多く、数々のアート・コンペティションやカーニバルの審査員も務め、ヨーロッパやアジアの様々な国で開催された国際的な展覧会の取材活動を行っている。
ライター連絡先:takir75@gmail.com