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バングラデシュにおける現代アート 60年史(第4章、全6章)

Bangladesh

タキール・ホサイン ( Takir Hossain ) / 訳:藪本 雄登

Anisuzzaman

1990年代半ば、ダッカのアート界に大きな変化が訪れました。多くの知的な画家たちが新たな表現方法や技術を探究し始めたのです。インスタレーション、アニメーション写真、ビデオ撮影などがこの時期に大々的に取り入れられました。最初はハミドゥザマン・カーンが1978年にバングラデシュにインスタレーションを導入し、歴史的な自然災害であるウリル・シャル・サイクロン(1985年に発生)に焦点を当てました。

これらの芸術のジャンル以外にも、多くの熱心な画家たちが定期的に作品を展示し、個人的な表現方法を確立しようとしています。その中には、ムスタク・アーメド、ナシマ・クイニー、アスマ・アクバー、アロプトギン・トゥシャール、プロシャンタ・カルマカル・ブッダ、アニスザマン・アニス、アヌクル・マジュムダル、タリカット・イスラム、シャムスンナハル・ラブリー、ソバハン・ヒラ、デュラル・チャンドロー・ゲイン、ザヒール・ホサイン・ニュートン、ラシード・カーン、ラシュド・カマル・ラッセル、アシュラフル・ハサン、Kamruzzaman Sagar、Nagarbasi Barman、Rezowan Pilow、Mohammad Razwanur Rahman、Shahanoor Mamun、Shohag Parvez、Sultan Ishtiaque、Biplob Kumar Das、Arifur Rahman、Mobasshier Mojumder、Tarek Amin、Fakhrul Islam Shakilなどがいて、彼らは、広く美術通や美術愛好家の注目を集めています。私たちは彼らの作品にもスポットを当てる必要があります。

ムスタク・アーメド(Mustaque Ahmed 1956-)は、社会的、政治的意識の高い画家であり、ダッカのアートシーンで長い間活躍してきました。国が混乱に陥るたびに、彼は、その状況を強烈に描き出す為に手を貸してきました。登場人物の配置も文句のつけようがないほどユニークで表現力に富んでいます。彼の作品では、孤独な魂の嘆き、根底にある哀しみ、荒涼とした印象を感じさせます。ムスタクは、小さな曖昧な形と全体の基本的な構図の使い方が非常に徹底しています。時には黒を主要な色調として、色を何層にも重ねる実験的な試みも行っています。彼の線は、自身の芸術に対する勤勉さ、憧れ、献身を知ることができる独特の雰囲気を醸し出しています。ムスタクは、特徴的な技術のために細心の注意を払って筆を使用しています。空間は開放的で広く感じられ、それぞれの瞬間と時間がはっきりと強調されています。彼は色を直接塗り、芸術的な必要性に応じて丁寧に作品を洗練させ仕上げていきます。

  • Mustaque Ahmed

ナシマ・カノム・クイニー(Nasima Khanom Queenie 1963-)は半抽象画家だと言えるでしょう。彼女の一見さりげない構図は、葉の一枚一枚や群葉の複雑な有機的構造の形態的残象を帯びています。自然界を照らしだすために、彼女は、自然の生命体の隠された基質を微視的に見ることによる視点を駆使しています。そのため、図案化された平面状に現れる人間像が何度上書きされようとも、不可思議な設定を作り出すための異化戦略が使われているように思われます。

  • Nasima Khanom Queenie

プロシャン・カルマカー・ブッダ(Proshanta Karmakar Buddha 1965-)は、純粋なリアリズムを通して彼の強い声を作品に持たせています。彼は特定のテーマや作業プロセスにとらわれることなく、様々なテーマに取り組んできましたが、常にそのテーマの細部を個人特有な表現とスタイルで捉えようとしてきました。彼は川辺の生活、ジプシーの生活様式、蛇使い、解放戦争、言語運動などを表現した一連の作品を制作してきました。馬の形をした精悍な力、大胆な目、ベンガル語の文字は、彼の絵画の繰り返しのテーマとなっています。サンダル、空っぽの鉢、花、女性の顔、子供などがよく描かれています。

ザヒール・ホサイン・ニュートン(Zahir Hossain Newton 1965-)は、今世紀の初め頃、東洋美術から抽象美術への探索へと乗り出しました。ダッカ大学美術学部工芸学科の学生として、人間関係や自然、鳥類の描写に没頭していました。やがてこの画家は、工芸美術の厳しさが彼の現代的な感性に合わないことに気づきました。その後、彼は線、色、形、質感の新しい領域に入り、独特で想像力に富み、知的であるという芸術の抜きんでた側面を発見しました。芸術愛好家にとって、彼の作品は、画家自身の痛み、憧れ、幸福、欲望を育む雲のかけらのように見えます。彼の現在の手法は、純粋な抽象表現主義といえるでしょう。ザヒールは自然を理解し、その多様な要素が生き生きとした方法で彼と共に表現されます。その作品は、画家自らの心の気づきと哲学的な経験を培う世界の一部のように見えます。

  • Zahir Hossain Newton

アロプトギン・トゥシャール(Aloptogin Tushar 1968-)は、様々な媒体を通して彼の創造性を表現するために力を尽くしました。亜大陸のさまざまな時代を代表する有名な男女の肖像画を作るのを得意とする画家です。これらの著名な人々は遺産を残しています。彼らは南アジアの社会を改革し、再形成してきました。彼らは今日ではもういませんが、彼らの貢献は私たちの日常生活の中で今でも意味を持ち続けています。彼はまた、曲線美溢れる年頃の女性を描いてきました。彼の有名なテーマの一つは「ナコールの反乱」で、木炭をベースにした絵には、弓矢を持って武装したサンタル族が戦争をしている様子が描かれています。トゥシャールは歴史上の出来事を描くことに大きな情熱を注いでいます。この一連の作品を通して、画家は、チャパイ・ナワブガンジ(Chapai Nawabganj)傘下のナコール(Nachole)地域のサンタール人コミュニティが自分たちの土地に対する権利を確立しようとした1949-50年のサンタール農民革命を回想しています。

シャムスンナハル・ラブリーShamsunnahar Lovely 1969-)は画家であり、写真家であり、タゴール(ベンガルの詩人)の芸術家でもあります。彼女の絵画には、花や木の開花や芽吹きが繰り返し描かれています。彼女は主に国内の季節の花を扱っていました。イメージが非常に明るく穏やかに見えるので、明るさは、彼女の作品の中で、重要な側面です。この画家は、時折、様々で漠然とした平易な形で実験的試みをすることを好み、それを様々な方法で壊したり構築したりすることを楽しんでいます。彼女の非常に絵画的で魅力的な自然観察は、画家自らの精神に深く刻み込まれており、水彩画やミクストメディアをベースにした絵画は、彼女の熟練した手でイーゼルの上で色を塗ることで、ごく自然な成り行きで制作されていきます。画家は、異なる色の花の部分部分を含む木の枝をクローズアップし、色の顔料を散らすことで作品を変化させています。

  • Shamsunnahar Lovely

ソバハン・ヒラ(Sobahan Hira 1970-)は、実験的な版画家として活動しました。彼は真面目な傍観者であるため、自然やその様々な神秘的な事柄、変化する人間の生活、都市と農村の生活の挫折と絶望、社会で不利な立場にいる人々と社会から権利を奪われた人々、庶民とその生き方などが、彼の優しい心に深く刻み込まれています。抽象表現主義としてヒラは、赤、淡い黄色、黒、白、心を癒す瑠璃色を中心とした、邪念のない表現形式と作品に力を注いでいます。

アニスザマン(Anisuzzaman 1972-)は、現在では、国内で最も重要な木版画家の一人となっており、彼の作品は、都市建築、人間の居住空間の建設、都市構造、都市の構造デザインなどに焦点を当てています。彼の版画は幾何学的、構造的な要素と密接に関連しており、建築の表現への情熱を容易に感じることができます。また、この版画家は、都市に住む人々が気づかずに何となく見落としているような、私たちの身の回りの風景に無意識のうちに焦点を当てていることも、よく見て取れます。彼は首都を見るための独自の認識と思考プロセスを持っています。アニサザマンは生まれつきの完璧主義者です。彼の版画は端正ですっきりしていて、常に装飾を避けています。技術的な面では、彼は油性着色の木版画に大きな魅力を感じています。日本に滞在していた時、彼は長期にわたってこの表現方法を試みました。その間、光と陰影がいかに版画に劇的な効果を与えるかを学びました。彼はまた自身のキャリアの中で、違う時期には、水彩絵具ベースの木版画で多くの版画を制作してきました。常に自身の版画にマルチブロック(他種の版)を使用しており、この技法は作品に空間の広がりを加えるための自由を与えています。

  • Anisuzzaman

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著者について
タキール・ホサイン (Takir Hossain) は、美術評論家、文化キュレーターとして、長い間、現代のバングラデシュの芸術と文化について情報発信を続けている。彼の強い関心は芸術と文学にあり、美術評論家としての批評は、多くの著名なアーティストの書籍、パンフレット、バングラデシュ国内外の美術雑誌、その他多くの創造的な出版物に掲載されている。また、国内外のセミナーで講演を行うことも多く、数々のアート・コンペティションやカーニバルの審査員も務め、ヨーロッパやアジアの様々な国で開催された国際的な展覧会の取材活動を行っている。
ライター連絡先:takir75@gmail.com