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ラオス 現代アート概説

Laos

鈴木一絵(協力:ミスーダ・フアンスッコウン)

 インドシナ半島の内陸国として、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、中国の5カ国と国境を接するラオスは、現代アートの文脈では東南アジアの周辺国に比して語られる頻度が少ないと言わざるを得ない。しかしながら、近年は、シンガポール・ビエンナーレや、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(ATP、オーストラリア)に招請されるなど、国外でラオス人作家の作品に触れられる機会は確実に増している。

 14世紀にはラーンサーン王国として栄えたラオスは、19世紀終わりから20世紀半ばまではフランスにより仏領インドシナに編入される。その後、日本軍による進駐、フランスからの独立、フランス軍の再進駐を経て、1975年のラオス人民革命党による革命により王政を廃止、現在の同党一党制の社会主義型のラオス人民民主共和国となった。その地政学上の特性から、ベトナム戦争時には世界で最も多くの爆弾を落とされた悲劇の土地でもあり、爆弾によって生まれたクレーターや回収されずに残る不発弾など、未解決のまま残された戦争の傷跡や記憶と向き合い作品を制作する作家も多い。

 ラオスで活躍する作家のほとんどは、ラオス国立美術大学の出身者であり、卒業生の大半は、教職や公共事業(ポスターや彫刻制作など)の職人といった仕事に就くが、外国人観光客向けの商業ギャラリーで販売される風景画や仏教画を制作して生計を立てる作家もいる。この唯一の美術教育機関では、フランス植民地時代に輸入されたモダニズム的手法を元にした油彩/水彩の風景画や、社会主義リアリズム作品の制作手法が教授されている。現代美術作家の第一世代として知られるマーイ・チャンダーウォンは、同大学元副学長であり、多くの学生に影響を与えてきた。パリで美術教育を受けた後に帰国、西洋絵画の手法を取り入れ風光明媚なラオスの風景画等を描く一方で、独立運動、ベトナム戦争、革命の経験・記憶を反映させたメッセージ性の強い作品も多く制作し、国家芸術家に認定されている。

  • マーイ・チャンダーウォン(左)

 公立機関としては国立芸術大学が唯一の芸術教育機関ではあるが、その他には、フランスからの独立後の美術教育に影響を与えたフランス人アーティスト、マルク・ルゲが開設した美術学校も重要な役割を担い、自身の美術学校に加え、政府に雇用され中学・高校でドローイング、水彩なども指導した。1975年にルゲが国外に移住した後は、自宅建物をフランス大使館が改装した後、ビエンチャン市が所有し、「MASKギャラリー」として現在アーティストたちによって賃借・運営されている。公的なアートセンターや美術館はないが、ラオス美術コレクターのオーストラリア人女性によって運営されるi:cat galleryなど、現代美術作家に場を提供するギャラリーは国内にいくつか存在する。

 教育制度や発表の場といった課題に加え、社会主義体制のラオスにおいて、芸術表現は自由を保障された活動ではなく、ヌードや軍人を描くことは検閲の対象となる。政府批判と受け取られるような作品にも制約は伴うが、近年の急速な経済成長に伴う環境・社会の変化に対する問題意識を反映させた作品などを制作する作家として、いずれもシンガポール・ビエンナーレに出展経験のあるホンサー・コッスワンやブォンプール・ポティサンらがいる。コッスワンは、国内ではラオスの伝統的な風景画や少数民族の水彩画の作家としてよく知られるが、同時に、現代のラオス社会が直面する課題などを扱う新聞のコラージュ作品も、国外のキュレーターにはよく知られている。ポティサンは、開発に伴い破壊される自然環境への問題意識により制作されたランドアート作品や、不発弾を使用したインスタレーションなどが代表作としてある。

  • ホンサー・コッスワン

 その他、国際的に活躍する作家としては、福岡アジア美術トリエンナーレやシンガポール・ビエンナーレへの出展経験もあるマリサ・ダラサヴァットが挙げられる。女性性とその表象、母と子といった主題を中心に、西洋絵画とラオスの伝統的な技法を混ぜ合わせ、極端なデフォルメや曲線を多用した表現手法は独自のスタイルを確立している。

 これらのアジア域内の国際展に続き、2018年には前出のATPにも選出されるなど、緩やかながらラオス人作家の国外への露出は増加している。オーストラリア企業による社会貢献事業の一環として設立された基金「エレベーションズ・ラオス」は、ラオス人作家のATP初出展を記念した展覧会やシンポジウムを初開催したり、ラオス人のコレクター/キュレーターによるアート・プロジェクト「メコン・アート・イニシアチブ」が立ち上げられたりと、活気付く現代美術シーンが今後どのように持続的に発展し、国際的な文脈により活発に参入していくことになるのか、ラオス人作家の作品に直接触れられる機会も増えていきそうだ。