NEWS/COLUMN
SoCA( School of Contemporary Art )/ アウラ現代藝術振興財団
The Documentation Project of Contemporary Art 2020 Vol.3 / Abstraction of Breathing
本プロジェクトの目的は、現在のパンデミックを通じ、ミャンマー国内や地球全体の生態系や政治的な危機に対応するため、ミャンマーの現代アーティストの表現や解釈を比較し、ミャンマーにおけるローカルの事象を現代アートを通じて反映し、それを記録し、世界に発信することである。
ミャンマーにおいて「呼吸」とは、哲学用語で「 Phyit Chin 」や「 Pyiat Chin 」と呼ばれる「死と復活」を中心に展開する分解と再構築を意味する概念としてよく知られており、他方、科学用語として生物の細胞増殖の意味として使われている。
また、呼吸( ātman の語源)は、仏教哲学やヴェーダ哲学の探求の中において、人間に内在する意識や存在に関するもっとも根源的な現象である。 息を吸ったり吐いたり、身体を物理的に動かすことによって、私たちは身体的にも精神的にも均衡を維持している。
ジル・ドゥルーズの『スピノザと表現の問題』では、身体と心の関係について述べているが、哲学モデルとして身体を利用し、ドゥルーズは次のように述べている。
「身体が他の身体と『遭遇』するとき、あるいは思想が他の思想と『遭遇』するとき、二つの関係が時に結合して、より強力な全体を形成し、時に一方が他方を分解し、その部分を破壊することが起こる。私達は、ある身体が私たちの身体と出会い、その身体と統合されたときに喜びを感じ、逆に、ある身体や思想が私達自身を脅かすときに悲しみを経験する。」
このように私達の身体や心は、刻々と変化する地球の生態系の過程に類似している。移民や差別等の人間の行為により、心理的にも物理的にも地球は危機に瀕している。その時、私達の欲望や生存本能は、これらの混沌を理解し、対応するために、数多くの問いを生じさせるだろう。
Abstraction of Breathing では、これらの地球全体の現象と人間の意識は、密接に関連していることを提示する。ラテン語において「抽象化( Abstraction )」は「引き剥がす( to drag away )」ことを意味し、地政学的な地図上から自分自身の意識や存在を引き剥がす。そして、ミャンマーの現代アーティストによる視覚的な表現により、引き剥がされた意識や存在の認識を再構築/再提示することを試みる。
2021年1月
Aung Myat Htay/Yuto Yubumoto
Abstraction of Breathing: Exploring Multidisciplinary Art in Myanmar Vol:3 Facebook
本プロジェクトは、SoCA( School of Contemporary Art )の創設者であるアウン・ミャッテー氏がキュレーションを行い、アウラ現代藝術振興財団/ Aura Contemporary Art Foundation 理事の藪本雄登が共同でキュレーションとサポートを行っている。
アウン・ミャッテー / AUNG MYAT HTAY(アーティスト、キュレーター)
AUNG MYAT HTAY
アウン・ミャッテーは、ミャンマーのマンダレーに生まれた。現在は、ヤンゴンを拠点に活動している。幼い頃から父親の手伝いでブロンズ彫刻の練習をしていた。1991 年にマンダレー美術学校で美術教育を受け、1998 年にヤンゴン芸術文化大学で美術学士号を取得し、2002 年まで同校にて講師を務める。現代アートに見られる表現の自由の可能性を探求し、伝統的な形態や視覚的な作品に現代的な感覚を融合させた作品を発表している。また、ミャンマー国内での活動に加え、2005 年からはミャンマー国内のアートコミュニティのライター/キュレーターとしても認知されている。これまでにタイ、インド、日本、インドネシア、ベトナムやフィリピンなどアジア各地で作品を発表している。2010 年には福岡アジア美術館のレジデンスプログラムに参加し、2011 年にはインド・バンガロールで開催されたLive Art 2011に参加した。2012 年には黄金町バザール国際芸術祭(横浜)のアーティスト・イン・レジデンスに参加。2012 年、ソブリンアジアアートプライズの東南アジア・ファイナリストに選出され、2014 年にはアジア文化協議会のニューヨーク・レジデンシープログラムにおいて半年間の助成金を得て、アメリカでのリサーチやキュレーターとの出会い、新作を発表する。2017 年「 My Yangon My Home 」アート&ヘリテージ・フェスティバルのパブリックアート部門のキュレーターを務める。2017 年、国際交流基金アジアセンターアートスタディーズプロジェクト主催のキュレーターワークショップに参加。2019 年、インド・ゴアで開催される「セレンディピティ芸術祭」に参加。最近では、現代ミャンマー美術を研究報告した「 Silence is Golden 」を出版している。
プー・ミャット・トゥエ / Phoo Myat Thwe(アートライター)
Phoo Myat Thwe
Phoo Myat Thwe は、現在ヤンゴンに拠点を有する現代写真を支援する団体「 Myanmar Deitta Photo Gallery 」のギャラリーマネージャーを務めている。また、1890年代後半まで過去を遡り、2万点以上のミャンマーの写真を収集したアーカイブ「 Myanmar Photo Archive 」のプロジェクトアシスタントとしても活動している。2019 年には Arts Equator による史上初のアジアアートメディアラウンドテーブルに参加し、同年にはベルリンのヤングキュレーターズアカデミーのプログラムに参加した。国際交流基金ヤンゴンのプログラム「クリエイティブ・プラットフォーム・シリーズ」でも執筆等を行い、2020 年には、Myanm/art Gallery の支援のもと、オンライン展覧会「 Art-Spaces-Us 」のキュレーションを担当した。
ダイアナ・フトウェ / Diana Nway Htwe (美術評論家)
Diana Nway Htwe
Diana Nway Htwe ( Thet Thet Nway Htwe )は、シカゴ美術館付属美術大学(アメリカ)でビルマ美術史を専攻し、美術史、美術理論や美術批評を学んだ。ミャンマーと西洋の美術館の学芸員としての経験を持ち、アートは、時代の社会政治的ダイナミクスを伝達、拡大するためのメディアとして有用であり、ミャンマーや東南アジアのみならず、世界にミャンマーの芸術を広める活動を日々継続している。
<評論家の詳細>
www.nwayhtwe.com
ベイ・ベイ / Bay Bay (写真家)
Bay Bay
ベイベイは、写真作品を数多く制作し、急速に発展していくヤンゴンを映し出す反射的かつ瞑想的な作品からシュールレアリスムなフォトコラージュまで、様々なスタイルの映像制作を制作している。現在はフリーランスの写真家として活動しており、2017 年のヤンゴンでの初個展をはじめ、数多くの展覧会に参加している。ミャンマー最大の写真イベント「ヤンゴンフォトフェスティバル」にも継続的に参加している。
<アーティストの詳細>
https://myanmartevolution.com/2018/11/06/i-am-drunk-a-solo-by-bay-bay/
ルイン・オオ・マウン / Lwin Oo Maung(パフォーマンス、アーティスト)
Lwin Oo Maung
ルイン・オオ・マウンは、ミャンマー国軍の元兵士である。アートを通じて、彼自身の身体とアーティストとしてのアイデンティティー、ミャンマー国民が崇拝する霊や歴史上の人物、そして自分自身、自身の未来像や霊の存在の再構築を試みる。
<アーティストの詳細>
https://myanmartevolution.com/2018/01/11/after-10-years-lwin-oo-maung/
ブラン・リー / Brang Li(インスタレーション・アーティスト)
ブラン・リーは、1981 年、カチン州に生まれた。ヤンゴンで絵画を学び、ヤンゴンで多くのグループ展に参加し、2011 年には Pansodan Gallery で個展を開催した。現在は、内戦や難民キャンプの人々を対象として、煙の動きを活かした作品を制作している。今回のプログラムでは、空中に浮かんでいるようなインスタレーション作品「 Kachin boate 」を展示する。
No more life, 2016
Soot and acrylic on canvas, 48″ x 60″
Martyrs’ Mausoleum, 2015
Acrylic on canvas 36″ x 60″
伊藤 & モエ ミヤット / Ito & Moe Myat (MATTER)
Ito
Moe Myat
MATTER は、Moe Myat が運営する、アーティストによる思想的かつ革新的なリサーチラボである。ワークショップ、討論会、プロジェクト、イベントや上映会等を実施している。Win Htut Thawda rは、音楽家、作曲家、サウンドデザイナー等としても活動している。
<アーティストの詳細>
https://www.moemyatmayzarchi.com/experimental/2016/12/3/splash-cameraless-film
メイコ・ナイン / Mayco Naing(演劇・写真家)
Mayco Naing
メイコ・ナインは、1988 年の革命時に生まれた。軍事政権の下で育ったビルマ世代の時代精神を捉えたポートレートシリーズ「 Identity of Fear 」でよく認知されるアーティストである。彼女は、ミャンマーにおいて新しく登場した表現の自由を活用し、特に少数民族の紛争地域に住み込み、一人でも多くの市民アーティストやフォトジャーナリストを育成できるよう、日々活動を行っている。
<アーティストの詳細>
https://myanmartevolution.com/artist-mayco-naing/
コー・ソー / Ko So(パフォーマンスアーティスト)
Ko So
コー・ソーは、シャン州を舞台に活躍するパフォーマンス・アーティストであり、環境保護にも強い関心を有している。2005 年からミャンマー国内や国際的なアート活動に参加し、現在は2018 年と2019 年にヤンゴンで開催された New Zero Artspace 主催の国際的なパフォーマンスアートイベントに参加している。また、内戦や武装勢力間の紛争に対抗するため、シャン州の民族のアートコミュニティに関与し、文化芸術の意義を伝える活動を行っている。
トゥーマ・コレクティブ / Thuma Collective(写真家)
Thuma Collective
Thuma Collective は、ミャンマー出身の女性写真家のグループで、視覚的な作品制作に注力している。" Thuma "はミャンマー語で「彼女」を意味する。このコレクティブは、5人の女性写真家によって2017 年に発足し、Thuma の作品は、ミャンマー国内や国際的なアートシーンで展示されている。その他ミャンマー国内のデルタギャラリーでの「 Us & Beyond 」や「 Disclosure 」、ヤンゴンでの Psuzing Arts in Research Festival 等での展示がある。
<アーティストの詳細>
https://www.irrawaddy.com/culture/arts/women-photographers-tell-life-stories-images.html
ピャエ・フィョ・タットニョ/ Pyae Phyo Thant Nyo(学際的アーティスト)
Pyae Phyo Thant Nyo
ロンドンとヤンゴンを拠点に活動するアーティスト、Pyae Phyo Thant Nyo は、自己探求とスピリチュアリティに関心を持っている。彼の芸術活動は、写真、ビデオ、絵画、彫刻、インスタレーションの間を行き来し、詩的で瞑想的な思想を提示しているが特徴である。現在、ロンドンの美術大学に在籍しており、ヤンゴンを拠点とするアート集団 BOUHINGA の一員である。時間、記憶、人間や自然等に関心を持ち、日々、作品制作を進めている。
(出典:Myanm/art Facebook ページ)
サイ・フチン・リン・ヘット / Sai Htin Lin Htet (写真家)
Sai Htin Lin Htet
サイ・フティン・リン・テットはヤンゴンを拠点に活動するアーティストであり、教育者でもある。共感をテーマに、人権、環境問題、平等、差別、アイデンティティなどの問題に焦点をあてている。彼の作品は、民族的背景、アイデンティティ、ジェンダーや検閲等から着想を得て制作がなされている。2019 年にロンドン大学のゴールドスミス・フェローシップを受賞している。
<アーティストの詳細>
http://www.saihtinlinnhtet.com
本プロジェクトは、アウラ現代藝術振興財団の助成により、ミャンマーにおけるオルタナティブなアートシーンの記録と、ミャンマー現地のアートシーンのデータベース化を出発点として取り組みを開始している。その後、現代アートの実践と教育的アプローチも包括して実施することを意識してきた。ミャンマーのアートシーンには、理論的な調査研究とキュレーターとしての実践が必要不可欠になっているが、インフラ整備が十分になされていないのが現状となっている。
日常生活の中におけるアートとの関係は、商業マーケットの美術作品を除き、ますます疎遠になっている。ミャンマー国内のアートインフラの状況を再考するための効果的な方法は、技術的な方法を再検討することにあり、今回、写真、ビデオ、動画等を通じた芸術表現の実施は、ミャンマーにおいては、極めて新しい取り組みだが、これらの新しい表現を記録に残していくことは、将来のミャンマーにとって意義深いことであると確信している。私達は、若い世代の現代アーティストが、独自の表現で、ミャンマー独自の歴史、文化、アイデンティティを踏まえて、世界に発信していくことを期待し、本プロジェクトを推進している。
DVD magazine Vol;1 (2013)
DVD magazine Vol;2 (2019)
本プロジェクトは、2013 年に開始されている。アーティストやキュレーターへのインタビューでは、地域のアートシーンの現状を収録した。本プロジェクトは、国内外のアートコミュニティからの賛同を得て、2019 年には、第2弾プロジェクトは、2015 年以降のローカル・アートシーンの社会的政治的変化を踏まえてインタビューを収録した。第2弾では、アウラ現代藝術振興財団と国際交流基金ヤンゴン事務所の支援を受け、実施が実現した。
SoCA は、2015 年よりヤンゴンでオルタナティブなアートの教育を目的としたアートコレクティブである。地域のアートコミュニティの構築と、若手アーティストの現代アートへの新たなプラットフォームの構築を目指している。SoCA では、オンライン、公募展、クロスメディアの国際ワークショップなど、様々なプログラムを実施してきた。SoCA のアートプロジェクトは、国際的なつながりの中でさらなる知識とつながりを得たいと考える地元の美術学生を支援するために、無償で自主的に組織されたものであり、学習、制作、現代美術の実践と研究への戦術的なアプローチを提供している。また、地域の芸術家コミュニティにおける創造的な知的交流や対話のためのプラットフォームとなっている。その他SoCA は、ヤンゴンを拠点に、オンラインプログラムやアーティストトーク、アートワークショップや展示イベント等のイベントも運営している。